今日は久しぶりに、赴任先から父さんが帰って来る日。母さんは何時になく
嬉しそうで、買い物をイッパイし、料理の支度に励んでいた。
夕方になり、「父さん、まもなく帰る時間だけど、一時間位で戻るから」と
町内会の集会に出かけた。私は気を利かせてお風呂にお湯をおろした。
一時間たっても、父さんも母さんも帰って来なかった。お湯が冷めるので、
私が入ることにした。タオルで髪の毛を巻き、風呂のドアを背にして湯船に
浸っていた。すると、いつ帰って来たのか「おまえ、オレも一緒に入るぞ」
と背中に父さんの声。「ダメッ!」と言い振り向いたら、そこには父さんが
お股から、ニューッと長く大きな不気味なものを突き出し、立っていた。
私は驚き、思わず「キャーッ」と悲鳴を上げた。「サッ、サギ子か!」と
言い、父さんは慌てて風呂場を飛び出した。
私はプンプンひとり言を言いながら風呂からあがり、居間に行った。
台所で、父さんと母さんが喧嘩してた。
「おまえ、いつまで何処に行ってたんだ!」「私だって、あなたの留守を
守ってあなたの代わりに町内のいろんな行事に出てるのよ!」母さんの声は
半分泣き声だった。
その晩の楽しいはずの夕食は、みんな無口で重苦しく、気まずい雰囲気に
私は堪らず、早々に食事を済まし台所を出た。すると父さんが追いかけて来
て廊下で私を呼び止めた。「なに?」と言って父さんを振り向いた。
父さんの顔は哀れと言うか、如何にも惨めと言う顔をしていた。
急に可愛そうになり、私は顔の前に人差し指一本を立て、<いわないよ>と
父さんにサインを送った。すると父さんは財布を出し、私に千円札を一枚
差し出した。私は<イラナイ>と、無言で首を横に振って見せた。すると
お父さんは一万円札を出し、私に無理やり握らせると、逃げるように台所に
戻って行った。父さんの、私のサインの読み違い、勘違いだ。
形の違う、余計な物があるばっかりに、男は哀れだ。
早く仲直りし、せっかくの一夜を楽しんで欲しい。 父さん、ガンバレ!