時代は昭和四十年前半の頃だった。
中部地方にある県の小さな漁村が私の生まれ故郷である。
海と山との間のわずかな平地に家屋がひしめくようにして立ち並んでい
て、村の中の道路がひどく狭かったのをいまでもよく憶えている。
父親が遠洋漁船の乗組員で、母が畑で野菜を作りみかん山の育成に精を出
しているごく普通の田舎の家庭の一人っ子として、私は中学三年までをそこ
で育ち暮らした。
父親は一年間で一ヶ月も陸にはいなかった。
物心ついた時から、私はいつも母と二人だけで生活していたような気がし
ていた。
私が中学三年の時、母の年齢は四十四才だった。
隣の村の百姓の家から嫁いできた母は働き者で、ほとんど毎日のように畑
かみかん山に出かけていた。
母は小柄でほんの少しだけぽっちゃり型の体型をしていた。
畑とみかん山は集落からだいぶん離れていて、山のほうに向かって歩いて
なら小一時間はかかるくらいのところにあった。
この頃の私はご多分にもれず、十五才という年代に男なら大半が経験する
はずの、異性と性に対する興味と関心を漠然とはしていたが、心ひそかに持
ち始めていた。
しかし私の場合は他の男の同級生とは少し違っていたようで、同年代の女
の子にはどうしてかあまり興味や関心はなかった。
余談になるが、学校で理科を教えてくれる女教師がいた。
年齢は三十三才でまだ結婚はしていなかった。
小柄で華奢な体型をしていて、顔立ちは美人というのでは全くなかった
が、やたら化粧が濃く、廊下ですれ違ったりすると化粧と女の体臭が微妙に
入り混じった匂いがひどくした。
男子生徒の間では「毒ガス先生」とあだ名されていたその女教師に、私は
なぜかひどく女性というものを、心の奥のどこかでひそかに抱いていた。
夜、布団の中で自慰行為に耽る時、空想にいつも出てくるのは、その理科
の女教師の裸の姿だった。
話が横道にそれたが、とにかく多感な年代だった私は、その年の夏にさら
に衝撃的で驚愕的なな出来事に遭遇することとなったのである。
夏休みのある日だった。
前日から母に頼まれていたみかん山の草刈に、私は母と二人で朝から出か
けた。
私は午後から人との用事があったので、昼までという約束だった。
みかんの木の下の雑草を鎌で刈り取ったり、農薬をみかんの木に吹いたり
するのだが、みかん山は五段の段々になっていて結構重労働だった。
私が段の下から母が段の上からと分かれて雑草を刈った。
昼になって母と二人で弁当を食べてから、私が山を下りて自転車を村のほ
うに向けて走らせていると、途中で軽四のトラックと出会った。
そのトラックは私の前までくると、突然クラクションを何度も鳴らしてき
て止まった。
降りてきたのは私の父親の弟の博之叔父だった。
「幸太、久しぶりやな」
博之叔父は若い時から都会に出ていて、小さな建設会社をしている人で、
この村にはめったに帰ってくることはなかった。
私の記憶でもこれまでに三度か四度程度しか会った記憶がない人だった。
「家にいったらな、誰もおらんかったんで多分畑やろうと思って来たん
や。幸太もきとったんかい。お前大きうなったのぉ」
「こんにちわ…」
「お母さんはまだ畑かい?」
「はい…」
博之叔父は私の母に相談事があるとのことで、めったに帰ることのないこ
の村まで、軽四のトラックで長い時間をかけて走ってきたらしかった。 そ
の場は何となく私は叔父と別れたのだが、自転車で走りながら妙に何かが気
になりだした。
叔父がその前にこの村へ帰っていたのは、半年ほど前の二月の寒い頃でそ
の時は父親が陸に上がっていた。
私の父親と母と博之叔父さんとで、夜遅くまで何かを話し込んでいたよう
だった。
そのあくる日博之叔父さんはもういなかった。
親子三人での朝食の時、母が父親に向かってぽつんといった言葉があっ
た。
「わたし、あの人嫌いやわ…」
その時の母のその言葉を私は唐突に思い出していた。
妙な胸騒ぎのようなものを感じた私は自転車の向きを変えて、もと来た道
を畑のほうに向かってペダルを思い切り踏み込んでいた。
畑のすぐ下の道にさっきの軽四が止められていた。
私の妙な胸騒ぎの原因がどこにあったのかはわからなかった。
私は自転車を降りてゆっくりとみかん山のほうに向かって歩き出した。
山の二段目のところに来た時だった。
「いっ、いやあ…やめてっ」
いきなり母の叫ぶような声が聞こえてきた。
胸騒ぎの予感が的中したのだと私は思った。
私はあわてて走ろうとした。
母が叔父から何かしらの暴力を受けて危機に瀕しているのだと、その時の
私は純粋にそう思っていた。
走りかけた私の耳に、ふたたび母の声が飛び込んできた。
「ああっ…だっ、だめ…ああん」
私の足は思わず急ブレ-キをかけたように止まり込んでいた。
母の声には間違いなかった。
しかしその声は、妙な余韻のこもった響きになっていた。
私はその場に立ち止まって、しばらくの間ただ愕然としていた。
母が叔父に襲われ犯されようとしているのだった。
母の声の響きの余韻を訊いて、十五才でも私はそのことをはっきりと理解
した。
そうならば当然、私はその場へ駆け込み母を叔父の魔の手から救わねばな
らなかった。
しかし私はそうはしなかった。
何か知らないけれど私の頭の中が錯綜状態になり、どうしてなのか全身の
血が熱く煮えたぎってきていた。
母の声はみかん山の四段目あたりから聞こえてきていた。
私は二人に気づかれないようにして、五段目のところに足を忍ばせて上が
っていた。
私が五段目に行くまでの間、母の喉の奥から搾り出すような女の声はずっ
と続いたままだった。
母と叔父の姿が真上から見えるところまで私は近づいて、草の茂みの陰か
ら胸を大きく昂まらせながらゆっくり見下ろした。
みかんの木の下の地面に母が仰向けになって倒されていた。
長袖のブラウスに紺地のもんぺ姿の母の身体の上に、がっしりとした体格
の叔父が覆い被さっていた。
母が苦しげに顔を歪ませているのが、私の目にはっきりと見えた。
その母の下半身のもんぺは、すでに片方の足から脱がされてしまってい
て、ブラウスも片袖を脱がされた状態になっていた。
ブラジャ-も剥ぎ取られてしまっていて、母の乳房が露わになっているの
が見えた。
叔父の幅の広い背中と腰が、母の両足を大きく割り開くようにして深く密
着していた。
叔父の下半身が丸出しになっていた。
「ああっ…ああ…だ、だめっ」
丸出しになっている叔父の下半身が微妙な律動を繰り返していた。
叔父の剥き出しになった臀部が母の身体に向かって動くたびに、母は顎を
大きく反り返らせるようにして、高く熱い声を出し続けていた。
もう母は叔父に、下半身をつらぬかれているのだというのがわたしにもわ
かった。
叔父が腰の律動を続けたまま上体を起こすと、母の両方の乳房が私にはっ
きりと見えた。
叔父の片方の手が母の乳房を揉みしだきにかかっていた。
母にもう抵抗の姿勢は失せてしまっているようだった。
両手を地面に這わしたままで、叔父の乳房への愛撫を払いのけようという
動作もなかった。
「あっ…あっ…も、もう…ああっ…‥い、いくっ」
母の明らかな喘ぎの声はさらに激しくなり、叔父のほうに向かって密着さ
せられている下半身を大きく突き上げるような動きになっていた。
「あ、麻子さんっ…どうだい、気持ちいいだろ?…ん?」
叔父の声がきこえてきた。
母が汗まみれの首を何度も大きく頷かせていた。
「どこが…どこがいいんだい?いってみな」
「ああっ…も、もうだめっ…あ、あそこが…ああ」
「あそこじゃわからんっ。はっきりいうんだ」
「ああ…ぉ、おめこ…おめこがきもちいいっ…」
「もっとおおきなこえでいうんだっ」
「おめこ…おめこよ。おめこがきもちいいの…ああっ」
十五才の私にはとても信じられないような、はしたなく恥ずかしい大人の
言葉のやりとりを訊いて、私自身はその場に座り込んだ状態で、パンツの中
で固く怒張していたものから、熱い液体を一気に放出してしまっていた。
叔父の短い呻き声が聞こえた。
私は草の上でしばらく放心したように仰向けになっていた。
頭の中がひどい混濁状態になっていた。
説明のしようのない混濁だった。
叔父と母の短い言葉のやり取りが聞こえてきて、私は草むらから身体を起
こして下を見た。
叔父が素っ裸になって立っていた。
母も全裸になっていて、叔父の前で正座していた。
そして母は口の中に叔父の剥き出しになったものを咥え入れていた。
母の顔が前後にゆっくりと動いていた。
私の股間はふたたび勃起状態になっていた。
長い時間その行為が続いた後、叔父が地面に仰向けになって寝転んだ。
母が叔父の股間のあたりに跨るようにして腰を沈め込んでいた。
「ああっ…」
母が声をあげて身悶えていた。
…母と叔父の行為は長く続いた。
その夜、叔父は私の家に泊まることになった。
私は昼間のあの後、母と叔父たちに見つからないようにして帰ったつもり
だった。
三人の妙にぎこちない雰囲気の中での夕食が終わり、早めに風呂に入った
私が二階の自分の室にいこうとした時、叔父が私に近づいてきて耳元で小さ
な声でいった。
「叔父さんとお母さんのことみてたんだろ?十二時にお母さんの寝室にこ
いよ、いいな、約束だぞ」
私はただ愕然とするしかなかった。
叔父の命令に従うしかないと思った。
十二時を少し過ぎた頃に、私は階段を下りて母の寝室に向かった。
母の寝室の襖の前に立つと、昼間の時と同じような母の間断のない喘ぎの
声が聞こえ洩れてきていた。
叔父に犯されているのだった。
「幸太っ、来たのか?入ってこいっ」
襖の向こうから叔父の呼ぶ声がした。
意を決して私は襖戸を開けた。
布団の上で母が全裸になって犬のように這わされていた。
その母の後ろで叔父が立膝をついて、股間を母の剥き出しの臀部に突き当
てていた。
「ほらっ、息子の幸太が入ってきたぞ。さっき教えたとおりに声をかけて
やるんだっ」
「ああっ…こ、幸太…ゆ、許してっ…お、お母さんを」
俯いたまま母が搾り出すような声で私に向かっていった。
「はやくっ、はやくいうんだっ」
「…は、はい…ねっ、ねぇ見てっ、幸太…ああ…お、お母さんね、叔父さ
んの…叔父さんのど、奴隷になったの…ああっ…だ、だからお母さん、叔父
さんのいうことは何でも…き、訊かなきゃいけないの」
母は叔父に後ろから強くつらぬかれた状態で、必死になって声を出してい
た。
「……‥!」
私のほうに応えるすべがなかった。
「お、叔父さんのめ、命令でね…幸太、あ、あなたの…ち、ちんぼを咥え
なければいけないの…あんっ…だ、だからお母さんのそばにきて」
まるでこの世の出来事ではないような状景の真っ只中に、私は知らぬ間に
身をおかされていた。
この後の状景を詳しく書くことは私にはできない。
体験したことだけをいうと、母に私は下半身のものを咥えられ母の口の中
に放出させられ、時間を少しおいた後、母との性交渉をもたされた。
それから私が都会の高校へ行くまでの間、私と母の身体の関係は長く続く
こととなった。
もうその母も、そして何も知らないままで父もこの世を去っていない。
四十年近い歳月の流れに何もかも全てが押し流されていって、それでもま
だ私は五十三才で生きている。