私が小学生の頃の話です。
その頃、私は中学生の姉と布団を並べて寝ていたのですが、ある晩、物音というか人の気配で目が覚めてしまいました。
私は横向きに身体を丸めて寝ていたのですが、背中の方からヒソヒソ囁くような声が聞こえて来ました。
…オキチャウヨ…ダイジョウブ…グッスリ……スグ……カラ…
背中越しに届く二人の囁き声は秘密めいていて、私は起きてる事を気付かれてはいけないと咄嗟に悟りました。
…ハヤク……チャオウ…ホラ…アゲテ…フウ……ハア…ハア…
きぬ擦れの音も聞こえてきました。二人の囁きはため息に変わり、父と姉がいやらしい事をしているのは小学生の私にもわかりました。
…ハアハア…ハアハア…ハアハア…
二人の息と同じリズムで身体を動かす気配が床を通して伝わって来ます。
絶対気付かれちゃいけないと思うと、ドキドキして、息が荒くなってきます。寝返りもうてないので、身体の左側も痛くなってきました。ドキドキドキドキ自分の心臓の音が聞こえます。二人に聞かれちゃったらどうしよう。私は息の仕方も忘れてしまい、思わず大きな息をはいてしまいました。
二人の動きが止まり、二人が私を見ているのがわかります。
私は心臓が止まりそうになり、固く目をつぶり、一生懸命息を殺しました。
…やがて、また畳が軋みはじめ…二人の囁きが聞こえて来ました…
…ックリシタァ…ッ…ン…
私はホッとしてゆっくり息をはきました。気付かれなかったのが何だか嬉しくて二人の声に耳をすませ、二人のリズミカルな動きを感じながら、いつの間にか眠ってしまいました。
翌朝はいつも通りの朝でした。父も姉も、そして母も…。
こんな経験はこの夜一度きりでした。これが本当にあった事なのか、私の夢なのか、今だにわかりません。
確かめる勇気も無い私にはずっと謎のままでしょう。