玄関のドアが開く音が聞こえたがそれっきりなので不審に思い、
「お母さん?」と言いながら玄関に行くと、
買い物から帰ってきた母が玄関でおしっこを漏らししていたことがある。
40過ぎにもなってこんなことしてと笑うのかと思ったら
「ごめんなさい・・・」と泣き出してしまった。
17歳の俺には何が何だか全く分からなかった。
買い物袋とトートバッグを母から受け取り
「取りあえず、ズボンを脱いだら?」と促すと、
おしっこが溜まった靴、びしょびしょの靴下、ズボン、パンツを脱いで玄関床に置いた。
「廊下はあとで拭くから」と説明して母を風呂場に行かせた。
俺は雑巾バケツを持ち出して、玄関の靴や服、母の足跡を拭いた雑巾をバケツに入れた。
その後、夕食をとってから荷物の積み替えをする高額な徹夜のアルバイトに行った。
あの時母が泣いたのは、とんでもないやつと結婚・離婚、親兄弟親戚とは縁を切った状態、女手一つで5歳上の姉と俺を育て、頼りの姉も結婚していなくなると、俺を頼りにしたかった、あるいは甘えたかったんじゃないかと今更ながら思う。
あの時、深夜のバイトに行って良かったと思う。