今年の新年も、3日から一泊の予定で県外にある温泉に、家族で出掛けた。
娘たちが生まれてから、欠かしたことのない、我が家の恒例行事だ。
4人連れの旅ではあるが、宿に入ってしまえば、いつも私だけが蚊帳の外だ。
女どもは、連れだって、はしゃぎながら大浴場に行き、私だけが、ひとり、部屋で酒を飲む。
気が向けば、温泉に浸かりもするが、向かう足取りも一人では寂しい。
こんな時、男の子がいればと、つくづく思う。
ふたりの娘は素直に育ってくれて、まだゴミ扱いもされずに済んでいるが、やはり、同性が家族にいないというのは、寂しい気がする。
酒を飲むのも、私だけだから、最後は手酌で、窓辺の椅子に座りながら、チビチビとやるだけだ。
夜も更けた頃に、締めの風呂の言わんばかりに、女どもは連れ立って、また、大浴場に向かう。
残された私が、外の景色を眺めながら、雪見酒としゃれ込んでいると、すぐに下の娘だけが戻ってきた。
「あとで、ふたりでお風呂に行こう。」
忘れ物をしたといって戻ってきた娘は、私の膝の上で甘えるように見上げながら、そういった。
「起きることができたらな。」
下の娘は、可愛いが、こんな所に来てまで、危ない橋を渡るつもりもない。
それでも、不思議と夜中に目が覚めて、風呂に入った。
もちろん、ひとりでだ。
下の娘に目を向けたが、起きる気配はなかった。
この温泉に、混浴の風呂はないのだから、ふたりで一緒に入ることも、結局は、出来はしないのだ。
ひとり、のんびりと湯に浸かり、最後の風呂を堪能して、脱衣所を出ると、娘がマッサージチェアに座って待っていた。
だらしなく浴衣の襟元を広げた姿は、見る者には垂涎の的かもしれないが、父親としては、顔をしかめるしかなかった。
「どうして、ひとりで行っちゃうの」
と、娘も、顔をしかめた。
言い訳も何も、ただ、行きたかったからだ。
何を期待したわけでもない。
腕を引かれ、真っ暗になった食堂の隅に連れて行かれ、そこで、我慢できないように抱きつかれた。
人の気配はなかったから、したいようにさせていた。
「お姉ちゃんみたいに、悪戯して欲しかったな。」
不意に、ぽつりと娘がつぶやいた。
なにをいっているのか、わからなかった。
「ちっちゃかった頃、お姉ちゃんに悪戯したこと、あるでしょ?」
記憶の糸を手繰って、遠き日を思い出した。
そう言えば、まだ上の娘が、2,3年生になったばかりの頃に、一緒に風呂に入っていて、悪戯をしたことがある。
それは、性器にキスをした程度の他愛ないものだったが、上の娘は覚えていて、妹に話したのだ。
あの子が、そんなことを妹に話したのかと思ったら、途端に顔が火照って、どうしようもない恥ずかしさを覚えた。
その頃は、この子などよりも、長女の方をことさら可愛がっていた。
利発で素直な性格をした長女は、何より仕草の一つ一つが可愛らしく、正直あの頃は、私の方が、上の娘にのぼせ上がっていたようなものだ。
風呂に一緒に入るのが楽しみで、仕事から帰ると、すぐに上の娘を呼んだ。
次女のこの子も一緒に入りたがり、先に体と髪を洗って、すぐに出してしまうと、残ったお姉ちゃんの体をじっくりと愛でたりしていた。
膝の上に乗せて、体の隅々まで念入りに洗ってやった。
自分で髪を洗いたがり、膝の上で長い髪と格闘している娘が可愛らしくて、何度も頬にキスをした。
すべて洗い終えて、一緒に湯に浸かり、風呂から上がるときは、立ち上がった長女の性器に、チュッとキスをした。
長女は、いつも「エッチ」と、はにかむように笑い、そして、私に嬉しそうな顔で手を振りながら、浴室から出て行った。
さすがに4年生になった頃には、そんなこともできなくなった。
妻の口添えもあって、長女はひとりで風呂に入るようになり、私の楽しみも消えた。
なぜかお転婆で、口ばかりが達者だったこの次女には、そういった気持ちが湧かず、長女が一緒に風呂に入らなくなってからは、この子と一緒に風呂に入るのもやめてしまった。
「お姉ちゃんばっかり、ずるいなあ。」
きっと、この子は、えこひいきされていると思い込んでいたのかもしれない。
「今は、お前が、一番可愛いよ。」
腕の中に入れて抱きしめてやると、じゃあ、一緒にお風呂に入ろうと、また、しょうもないことを言い出した。
宥める代わりにキスをした。
そして、「お前にもキスをしてあげるよ」と、浴衣の裾を割って、露わになった下着の上から、また、そこにキスをしてやった。
直接がいい、と恥じらいもなく、自分で下着をおろして、あけすけに見せつけたのには、さすがに鼻白みもしたが、それはそれで、この娘らしくて可愛らしかった。
「おっきくなった?」
と、何度もアソコにキスをしてやってから、訊ねられたが、おっきくなったところで、するつもりもない。
「じゃあ、帰ってから、またあそこに行こう。」と、例の公民館に行きたがるので、「あんなところじゃなくて、今度はホテルに連れてってやるよ。」と、思わず約束してしまった。
自分でいったあとに、なぜか微妙に心が揺れた。
この子とホテルに行きたがっている自分に気付いて、鼻白んだ。
だが、それが正直な気持ちだったのかもしれなかった。
上のお姉ちゃんとは違い、お転婆で、小憎らしいところも多々あった。
あまり素直ではなく、お姉ちゃんみたいに、と口癖のようにいいながら、叱ったことは何回もある。
私の中では、今でもお姉ちゃんが一番で、この子は、二番でしかない。
しかし、この子を一番にしたがっている自分がいるのかもしれなかった。
それに気付いたら、無性に目の前の娘が、可愛らしく思えてならなかった。
この子も、私の一番になりたがっている。
だから、私に執着しているのかもしれない。
ぼんやりと、そんなことを考えた。
部屋の戻ると、妻と長女は、深い寝息の中にあった。
下の娘を腕の中に入れて、眠りについた。
今ならば、できるかもしれないと、布団の中で尻だけ出させて、後ろから突いたりもした。
不思議なことに、萎えることはなかった。
覚悟を決めたというか、腹を据えたというか、どちらにしろ気持ちが固まっていたからか、それほど興奮していたわけでもないのに、力を失うことはなかった。
娘は、我慢しているだけで何も言わなかったが、さすがに、こんな所で処女を奪うつもりにもなれず、結局その夜は、それで終わった。
帰りの車の中では、夜更かしが祟ったせいか、景色を眺めることも忘れて、娘は、ぐうぐうと、ひとりだけ後部座席で高いびきだった。
ルームミラーで眺めながら、呆れて笑いもしたが、神経質な私には、こんな娘の方こそあっているのかもしれない、などと、車を運転しながら、ずっと他愛ないことを考えていた。