感染
僕への『事情聴取』でイラついていた母のやや興奮気味だった『火山性微動』が、完全な『火山性地震』に変わったと思ったら、あっという間に『噴火』してしまいました。でも、ちょっと有り難い事に、その怒りの矛先は僕の方からバカの方に方向転換していきました。
僕がその『噴火』の勢いをまともに受けたら、もうオシッコを漏らしまくって泣くしかないくらいの『恐怖』と『破壊力』がありました。でも、それを迎え撃つのは『バカ』なので、襲い掛かる『火砕流』にも、降り注ぐ『火山弾』にも、全然怯む事なく『さら~っと』会話を続行すると言う、恐ろしいディフェンス力を見せました。
「え~~~? ああ~、ほら? あそこ(診察室)で(診察)台に乗せられてから、けっこう待たされたでしょお~? それもぉ~、足開かされたまんまで~~~。んで、スースーしちゃったから~、『今日は、もう(履かなくても)イイかな~~~?』………って。」
僕はあの時、ワンピースのスカートがふわりと翻って、ノーパンのお尻が薄暗い廊下の奥へと吸い込まれて行くのを見て、得体の知れない不穏な空気が渦巻く、その先へ行ってはいけない未来へ、『バカだから』何の迷いもなく突き進んで『行ってしまうんだろうな…』と思いました。
僕はパンチラウォッチャーなので、拝めると期待した秘密の花園に『あの布地が無い!』となると、ビックリすると言うより、『ラッキー!』と思うより、ガッカリしてしまいます。その『大いなる落胆』に誘導されたネガティブな思考が、僕を全身が酸っぱくなるような不安感に包み込みました。
何にも出来ないダメな弟だけど、それなりにバカな姉の行く末を『ボンヤリと』心配してしまいました。なのに、そんな不吉な前兆みたいに感じられたノーパンの理由が、ただ単に『面倒臭くなったから履かなかっただけ』と聞かされて、僕の勝手な思い込みだけど『何だよっ!?(・さまぁ~ず三村)』と思いました。
「『って』じゃないでしょおーっ!? アンタッ、服は着替えてるんだから、ちゃんと下着も着けなさいよっ!? 赤ちゃんがいるんだからぁ~~~、横着しちゃダメっ!!」
「『おーちゃく』って~~~、ナニ?」
バカは、がっかりするくらい空気を読みませんでした。それどころか、わざと『火山』の『噴火』を煽ってるとしか思えない余計な一言を、いつものバカなペースで『噴火口』に投げ込みました。もちろん『勘弁してよ』と思うほどの『大噴火』が始まりました。
「ふざけんじゃないわよーーーっ!? ちゃんとしなさいって~~~のぉ!! ちゃんとぉおおお!! アンタ~~~っ!? 赤ちゃん産むんでしょうがっ!? 母親になるんでしょうがっ!? しっかりちゃんとぉ~、自覚しなさいよおーーーっ!!」
激しい噴火が、なぜだか僕を直撃し始めました。一番近い『麓』にいるのは僕なので、ある程度の被害は受けるだろうと思ってはいましたが、その予想をかなり上回るほどの甚大な被害を受けました。頭にマグマをテンコ盛りにした母は、無意識に僕の頭やら肩やらをバンバン叩いて、さらに僕の背中をゴンゴン膝蹴りしました。
『あっ、イッて! イッて! イッてぇーーーっ!!』
僕は『こうならない為』の予防策として、存在感を消して母の足元でジッとしていたのに、何の役に立ちませんでした。
事態がこうなってしまった『きっかけ』は、僕にありました。でも、そんな事実は棚の上にポイッと放り投げて、頭の中で都合良く『火付け役』をバカにすり替えた僕は、他人事みたいにイラッとしました。
「じゃあさ~~~、『リッちゃん』だってさぁ~あ? ダメダメじゃ~~~ん!?」
ここは素直に謝るか黙ってるか、とにかく荒れ狂う『火山』には逆らわない方がベストな選択なのにと、直接の『物理的被害』をブッ込まれてる僕は思いました。でも、全く余裕が無くなってた僕と違って、バカにはまだ余裕があり余っていたらしく、よりによって口答えをしやがりました。
「何よぉーっ!? 開き直りかーーーっ!?」
僕はバカの代わりに、母に頭をバシバシ叩かれながら、
『もお、その迷惑な口ン中に、グレープフルーツを十個でも百個でも目一杯放り込んで、黙ってモグモグしながら、どっかに消えて行ってくんないかなぁ~っ?』
と、胃袋をチクチクさせながら思いました。
「ほらあ~~~っ! 事実、事実ぅ! 証拠、証拠ぉ~! ナ・カ・ガ・ワ・ショ・ウ・コぉ~~~!!」
バカは、弟が自分の身代わりに暴行されている悲惨な状況には一切目もくれず、腹が立つ『しょ~もない』ギャグをキッチリ織り交ぜながら口答えを止めませんでした。全く怯む事なく母のババパンの縁に乗っかった、妊娠なのか肥満なのか判別出来ない、お腹の肉の弛みを『つんつん』と指差しました。指摘された母は『ハッ!』と一瞬怯んでしまって、アタフタと両手でお腹を隠しました。
「あっ、うっ、うう…、お、お、お母さんの事はどーでもいいのよっ! 話を反らすんじゃないわよっ!!」
「反らしてないじゃ~ん! 『リッちゃん』だって、赤ちゃん出来てるんでしょーーー? どうでもよくないじゃ~ん! よくないじゃあ~~~あん(・山崎邦正)!?」
叩かれても叩かれても我慢するしかない僕のところに、僕しか気付かない余計なギャグをバカは『これでもか!』とブッ込んでくるので、冷静でいなくちゃいけない僕の頭が『バカ』にジワジワと侵食されてきて、僕もヒートアップしてきました。
恐ろしい事に、バカと近親相姦なんかをやらかしてしまうと、バカに『シンクロ』しやすくなってしまうようです。チンポがマンコに吸い付けられて『ずっぽり』と挿入させられていくように、僕もいとも簡単に、バカの興奮に引っ張られてしまいました。
我慢に我慢を重ねている僕の頭の中で、イライラを重ねまくってた『もう一人の僕』がバンバン背中を叩いてきました。仮にも、あんなに凶暴な『猛獣』と付き合い始めた『男』が、こんな『小競り合い』ごときに『ビビっててどうする!?』とせき立てました。
『バカ』と『バカに感染した自分』に触発されて、僕は後先も考えずに、
『ブチ切れてやるぞっ!』
と、ケツのロケットエンジンを噴射して飛び立つタイミングを、『今か?、今か?』とムカムカしながら伺ってました。
それは全くのノープランで全く無意味な、ただただイライラしている気分を爆発させてスッキリさせたい、言い換えれば、ただただムラムラしている気分を射精でスッキリさせたい、そんなバカな中2男子がすぐ考えてしまう、バカ過ぎる生理現象と同じでした。
と、その時、キレるタイミングを計るために見上げてた母の口から、ドバっと大量の唾が飛び散りました。唾は僕の顔に満遍なく降り注ぎ、その中でもなぜだかデカイ一滴が、なぜだか眼球にダイレクトに飛び込んで来ました。
『あっ!?』
僕のムカムカが母親がブチ込んで来た唾一滴で、いともたやすく萎びて行きました。ゴシゴシ擦るまぶたの中で嫌な感じで冷えてくる唾が、ケツのロケットエンジンも冷却しました。
『あ…、危ない…。今、バカがうつって、墓穴を掘るところだった…。危ない、危ない…。』
唾で頭も冷やされたら、何の為に我慢してたのか思い出しました。ブチ切れた勢いにまかせて、この『バカ紛争』の場から退避出来たら成功でしょうが、逆に失敗してさらなる『巨大噴火』を誘発してしまったら、多分『バカ姉との近親相姦』や『猛獣との乱行』をこの場で全部吐かされて、
『僕の人生は、…終わる。』
と、冷静に結果を予想する事が出来ました。息子の暴走を一滴で止めた母親の唾。やっぱり母は偉大です。
「アンタたちがケンカしてたからでしょおぉ!? アンタたちが急がせたようなモンよっ! 不可抗力でしょおぉ!? 仕方がなかったのっ! 不可抗力だったんだからぁ。不可抗力ゥ~~~ッ!」
「『リッちゃん』だって、赤ちゃん優先してないじゃ~ん! 難しい言葉使っても~、説得力無さすぎ~~~ィ。」
ちょっと成長した僕とは反対に、バカな親娘の口ゲンカは収まりませんでした。特に母は妊娠している所為なのか、いつになく感情的でした。と言うより、やっぱりバカ娘のバカがうつったらしくて、低レベルな文句を『よせば善いのに』ガチで吠え始めました。
「ナニよ、この子はぁっ!? アンタに言われたくないわよっ! 『不可抗力』も分かんないアンタにィーーーッ! 『不可抗力』も分かんないくせに、親に向かってナニよっ、何なのよぉっ! 『不可抗力』も分かんないくせにィーーーッ、その口のきき方ぁーーーっ!!」
あまりにレベルダウンし過ぎた母の口調が、叱ってる風じゃなくなって完全に『バカ』になりました。ヒートアップした母は存在感を消し去っていた僕を蹴飛ばして、バカを直接ブン殴りに跳び出そうかという勢いになりました。
このままだと、妊婦同士が取っ組み合いを始める公算が『大』だと思いました。さすがにそれはヤバすぎると思った僕は、やっと覚悟を決めて『噴火』を抑える決心をしました。
いざ、『噴火口』に飛び込んで『いけにえ』になろうと思った、その時でした。
「お母さ~~~ん、」
「まだ、何か言うかっ!?」
「あのさ~、『まずカイよりはじめよ』だよ。」
『へっ?』
僕と母は急にバカが言い出した、『何の脈絡もない(と僕は思った)』セリフにポカンとなりました。この時、僕は全然そのフレーズを聞いた事もなかったので、
『何だよ、それ…?』
と、呆れてしまいました。全然関係ない無意味なフレーズだと思ったんで、てっきりまた母の怒りに『油を注いだな?』と思いました。一時的に止まった『噴火』が、さらに激しく『大噴火するぞっ!』と思って、僕はハーフパンツの中でチンポをプルプル震わせました。
「…あ、アンタどうしちゃったのよ?」
ところが、『来るぞ、来るぞ!』とビビりまくって、チンポをピタピタと何度も内ももに張り付けてた僕の予想を覆して、驚く事に『火山』へ『マグマ』の供給が完全にストップしました。
「ふふふ、ふ~~~ん(笑)。」
(めちゃくちゃ腹の立つ、バカが勝ち誇った笑い。)
「…まさか、『まさみ』の口から、そんな難しいセリフ、聞かされるなんて思わなかった。」
急に収まってしまった『大噴火』の足元で、僕一人だけ状況が飲み込めなくて、バカ丸出しのまま『ポカーン』としてました。すっかり自分を取り戻した母が『なぜだか』バカ姉に感心したんで、僕の頭からは次々とクエスチョンマークが生えてきて、『?』が大量にモジャモジャと固まった、でっかい『アフロ』が出来ました。