妨害
さりげなさを装いつつ、実は全力で作り固めてるその顔が、この前、母に妊娠してる事を感づかれた時に、必死でごまかそうとしてた『往生際の悪いとぼけ面』だったと、僕は思い出しました。
すると、僕の頭の中の曇り空に裂け目が出来て、さーっと『光の階段』が現れました。姉が『どうあっても隠し通したい』赤ちゃんのお父さんのヒントが、意外にフワッと思いついてしまいました。
「あっ! まさか、頭が良くって、ハンサムな人?」
「えっ? えっ、えっ、えっ、えっ、えっ、ええ~~~っ!? 何でっ!? 何でっ!?」
バカが、ついうっかりマジでビックリしました。自分でも『ヤバッ!』と思ったらしく、何とか、またごまかそうと取り繕おうとしました。でも下手クソ過ぎて、ほころんだ所を繕うどころか、ちょこっとずつ穴をデカくしていきました。
「だって…、いつも、僕の『埴輪顔』が、お母さんそっくりでウンザリするって………」
「か、語るねぇ~~~? お姉ちゃんのコト、良~く見てるねぇ~~~? ともゆきぃ~~~?」
バカは嫌な笑顔を作って、顔を傾けました。僕の分のお菓子をパクった時とかによく使ってた、表情でごまかしながら注意をそらしつつ、尚且つ話題を逸らそうとする『手』でした。けっこう僕は引っ掛かってて、数多くの重大事件をうやむやにされてきました。
でも、自分でやっておきながら、肝心な目を勝手に泳がせまくっているで、何の効果もありませんでした。
「えっ!? マジなの? 僕の言ってる事、当たってんの!?」
僕の頭の中で、光の階段がエスカレーターのようにゆっくり動き始めました。僕の『予想』が乗っかって登って行くと、何のイメージも湧かなかった赤ちゃんのお父さんの輪郭が、うっすらだけど階段の先に見え隠れしてきました。
僕が思いついた条件に当て嵌まるような、姉に関係する男性を頭の中であれこれリストアップしてたら、怖い事にひとり思い付いてしまいました。
「うっ!? お腹の子のお父さんって…、まさか…!?」
「言うなーーーーーッ!!」
いきなりバカが、ありったけのデカい声を張り上げました。僕の想像がホントに当たっているのか、どうなんだか全然判りもしないのに、僕の予想作業を必死こいて妨害しました。
「なっ、何だよっ、いきなりっ!?」
照合作業に集中していた僕は、そのバカを3乗くらい上乗せしたデカイ声に、思いっ切りビックリさせらてしまいました。その拍子に、解析作業を導いてくれてた『光の階段』が、一瞬でパッと頭の中から消滅してしまいました。
「言うなーーーっ! 黙れっ! それ以上しゃべって、お姉ちゃんの出産をブチ壊すなーーーっ!!」
「そんな、つもり無いよ…」
「あんたが無くったって、そうなっちゃうのっ!! あたしは産むーーーッ!! 絶対、産むんだって!(・越中詩郎芸人ケンドーコバヤシ) だから、あんたは黙れーーーっ!!」
さっきのアホ面とは打って変わって、姉の必死な形相は、チンポをヤリたい放題で弄んだ弟の、キンタマを縮こまらせるのに十分な威力がありました。僕には禁断のマンコに突っ込んでしまった罪悪感もありありなので、もう逆らう気力とかも何もかも、お尻の穴のように萎んでしまいました。
「わ、わ、わかったよ! もう、しゃべんないよ。邪魔しないよ。」
「ホントだねーーーっ!? 今、思いついた事も忘れるわねっ? 消すねーーーっ!?」
「わ、忘れる! 消す、消すっ!」
と、バカの勢いに押し潰された僕は負け犬根性丸出しで、あっさり姉の言う事を聞いてしまいました。
言われるがまま頭の中のメモ用紙を一枚、バリバリッと破って、ポイッと捨てました。でも、その下のメモには、まだしっかりと『キーワード』が写って残っていました。サスペンスドラマでお馴染みの、鉛筆でこすったら文字が浮き上がってくる、『あの』状態でした。
「じゃあ、もう『あいこ』に聞かれても、絶対、ぜーーーったい、言えないね? 言わないわねーーーっ!?」
姉は怒涛の勢いで間髪入れずに、一番恐ろしい約束を取り付けにきました。ついさっき『ヤツ』の厳しい尋問を、イヤと言うほど味あわされた僕には、到底『うん』とは言い難い約束でした。
「…そ、それは、ちょっと…、どうかな?」
当たっていようがハズレていようが、僕が思いついてしまったという事を『ヤツ』が嗅ぎ付けたら、『それが誰なのか?』間違いなく吐かされそうでした。心の中の鉛筆をバキバキッと砕かれて、頭の中のメモ帳の真っ白な表面を、真っ黒になった『猛獣』の前脚が、ガサツにこすり回す様が目に浮かびました。
「『どうかな~?』じゃ、ないわよっ!? 『そこ』が1番大事なトコなんだからっ!? あんたが1番頑張んなきゃいけないところでしょうがっ!!」
珍しく真剣な姉の言葉は、僕の鼓膜にグサグサ刺さってきて、イヤと言うほど良く分かりました。でも、その命令を遂行するには、中2の身体と精神ではあまりに脆弱でした。
中2の僕が逆立ちしたって勝てっこない、どうにもならない『脅威』と戦えと言われても、ハッキリ言って『無理』と言うものです。僕に残された『勝利への道程』は、『ヤツ』を打ち負かす事じゃなくて、『ただ黙って死〇こと!』だと命令してるようなものです。これがいわゆる『「玉砕」って「ヤツ」じゃないのかよ?』と思いました。
するとバカがまさに『そうだよ!』と言わんばかりに、すっかり縮こまったキンタマを恐ろしい妄想でさらに縮こめて、乾燥納豆みたいにしている僕に向かって、ダメダメな『最終勧告』をブッ込んできました。
「あんた、『あいこ』に吐かされそうになったら、ベロ噛んで〇になさいよっ!!」
(※・〇の中は『タヒ』。)
この時、マジで僕はバカ過ぎる姉に、言い知れぬ『恐怖』を感じてしまいました。あまりに真剣であまりに必死過ぎて、バカ姉はイクところまでイッちゃってました。
「無茶を言ぅーなっ!!」
「ともゆきは『あいこ』の彼氏なんだから、責任取るのが当たり前でしょおーーーっ!?」
「言ってる意味、解ってんのかよっ!? 出来ないよっ!!」
「じゃあああぁ、『あいこ』に変なマネさせたら、この子の次は、ともゆきっ!? あんたの子、妊娠すっかんねぇ~~~~~!?」
本気なんだか嘘なんだか、とにかく自分の思う通りに事を進めたい執念に、ガッチガチに凝り固まったバカが、何を血迷ったのか突然、またとんでもなく恐ろしい事を口にしました。
「バカじゃねぇ~のぉ!?」
「あたしよりバカな子産んで、いっしょにあんたを怨んでやるっ! 一生ずーーーっと、呪ってやるわぁぁぁ!」
必死のバカは、さらに恐ろしい言葉をテンコ盛りにすると、『貞子』の『呪いの目』より不気味な、『ヘビ女』の形相で睨んできました。
バカの『ヘビ女』を分かり易く言うと、『モナリザ』の顔に『西川きよし』のギョロ目を足して、コモドドラゴンを足したような顔です。思い出しただけでも身の毛がよだつ僕のトラウマです。
「そっ、その顔をやめろ!」
「あんたがやらせてんのよ~~~ォ! あたしの幸せをブチ壊そうとしてるともゆきが、あたしをこんな顔にさせてるのよぉおおお~~~!」
リビングに漂ってる、爽やかなグレープフルーツの香りと全く正反対の、『憎悪』と『嫌悪』と『不快』の塊みたいな『ヘビ女』の顔は、僕を恐怖のどん底に突き落とすのに威力があり過ぎました。
こんな『ヘビ女』のマンコに喜んで、チンポを何回も突っ込んでしまったのかと思ったら、僕はもう、とっくに呪われてるような気がしました。
って言うか、ヤッちゃいけないと分かっていながら、何回もヤッちゃったんですから、ぶっちゃけ近親相姦を犯した時点で、僕は呪われてるようなモノです。でも『チンポが腐って落っこちるような呪い』を追加で掛けられるのは、『勘弁してよ』と都合よく思いました。
「わ、分かったって! 姉ちゃんが無事に出産出来るように協力するって!!」
呪いを回避する為、やむを得ず姉の言う事を丸呑みにしました。と言うか、もうちょっと禁断のマンコにあわよくば『入れさせてもらえないかな…』と、頭の片隅でよこしまな計算が働いて、姉の御機嫌を取ろうと思いました。僕はクズです。
「ホントだな~~~? 嘘ついたら、呪いの子、産んでやるわよぉぉぉお!!」
「わ、分かったーーーって! だから、お前も、黙れーーーっ!!」
御機嫌は取りたかったんですが、あまりの『ヘビ女』顔の不気味さにパニクって、僕はつい全力で怒鳴ってしまいました。すると、まるっきり無防備だった背後から、鋭いツッコミが『スパーン』と思いっ切り後頭部に入りました。
「うるさいわねっ!! な~に、ケンカしてんのっ、アンタたちっ!?」
僕がビックリして振り向くと、帰って来てたことをスッカリ忘れてた母が、髪の毛から水滴をポタポタ垂らして立っていました。
「うわぁあああああっ!!」
御機嫌を取るどころか、表情すらも伺い知れない『ヘビ女』の『親』の登場に、僕は、さらにパニクってしまいました。頭の中には、『近親相姦がバレそうになって、母にボコボコにされた』恐怖しかありませんでした。