哀戦士
『あいこ』は僕とセックスするまで、イッたコトがありませんでした。その原因は『あいこ』自身にも分からず、おかげで解決法が分からないまま、ず~っと悩んでいたそうです。
バカ姉の話だと、オナニーとレズプレイでは、『イキまくり』だったそうで、『もしかしたら、ガチでレズかも…』と思い、さらに悩みを深~い物にしてました。
当然、元カレの『ショウたん』とも、イッてませんでした。
この時、僕は気がつきませんでしたが、そのコトが『ショウたん』の心残りだったみたいです。根拠の無いイケメンのプライドが、『俺のテクでイカなかった女』を許さなかったみたいでした。
その、どうでもいいプライドがアダとなって、危険な『「あいこ」地雷』を踏んでしまいました。何とか地雷処理をすれば、被害範囲は小さくて済みますが、その処理テクを持ってるヒトは、この場にはいませんでした。
僕も巻き添えを食う危険が、100パーセントありました。もはや、『逃げるっ!』しか道はありませんでしたが、身体とチンポがガチガチに固まって、指一本動かせませんでした。
『あいこ』のオーラがあふれて来ました。その威圧感に僕の心臓は止まりそうでした。『シンゴ』と『ハラニシ』も感じているようでした。二人とも片足が僕たちの反対側を向いていて、『ダッシュ』の準備をしていました。
『ショウたん』だけが気付かずに、それともワザと無視してか?、みんなが『…頼む、やめてくれっ!』と思ってるのに、イキッてしゃべってました。
「何のビョーキかってぇ~? 俺の口から言わせてイイのか~? えっ? 『不感…』、」
僕には『ショウたん』が、『フ……』と発音した音までが聞こえました。
不意に僕の前から『あいこ』が消えました。僕が見たのは、まるで『人魂』のように『フワワ~ッ』と空中を泳ぐ、『あいこ』の茶髪でした。
それがまた『フッ』と消えました。
『ザクッ!!!』
と、僕には聞こえました。『ショウたん』が一瞬固まり、すぐ『とろ~ん』として、『ふにゃっ』と地面に小さくまとまりました。それと同時に『シンゴ』と『ハラニシ』がダッシュしました。
僕たち、中学生の方が良く知っていました。『猛獣に背中を見せて、逃げてはいけない!』って…。必ず、猛獣が本能むき出しで、追い掛けて来るからです。
足がもつれた『ハラニシ』が転倒しました。倒れた仲間二人を気に掛けもしないで、ひたすら全力で走っていた『シンゴ』が『あいこ』に追い付かれて…。
ここで僕は、まばたきをしました。
次に僕の目に飛び込んできたのは、『シンゴ』が身体を『く』の字にして、ゆ~っくりクルックルと回って、コテッと倒れる場面でした。それを見届けた『あいこ』が戻ってきます。
起き上がった『ハラニシ』が、覚悟を決めて『あいこ』に向かって行きました………。『あいこ』の銀色のパンティーをはいた、お尻が見えました。
もうひとつ僕たちは、大事な事を知っています。『猛獣に勝とうなんて、思い上がったマネは、やらない方がいい』って…。
『あいこ』が右足を上げたのは分かりましたが、僕には、その右足は見えませんでした…。
『ハラニシ』はファイティングポーズのまま、『あいこ』の前で、『パタン、パタン、』と小さく身体をたたんで、正座をするよう崩れると、コテッと横になりました。
僕は『あいこ』が戻って来るのを見て、いつの間にか『あいこ』が裸足になっていたことに気がつきました。小さく小さく固まったまま震えている『ショウたん』の前に、『あいこ』が仁王立ちになりました。
「お前…、さっき何か、言ってたよな? もっかい言ってみな…。」
ここで『「あいこ」クイズ』です。
Q・『ショウたん』が言おうとしていた、『ふかん…』の後に続く言葉は?
シンキングタイムは相変わらず無制限です。地獄のメトロノームが、きっちり『蹴り』で一秒を刻みます。解答者の『ショウたん』は、
「ご、ごめんなさい…、」
と、苦しげな息の中、謝罪の言葉を搾り出しました。『あいこ』は低い声で、
「『ブー』って、言ってみな?」
と、『ショウたん』に返しました。震えながら『ショウたん』は口をすぼめて、『ブ』と言おうとした途端に、
『ドムッッッ!!!』
と、深い爪先蹴りが『ショウたん』の腹に、突き刺さりました。『ショウたん』は、
『グぉフぅぅ………っ!』
と、呻きました。肺の中の息を吐き切らされた『ショウたん』がさらに、もっともっと小さくなりました。
僕は、『ああ…、「ガン〇ム」って、コレなんだ…』と思いました。噂に聞いた『恐怖の機動〇士』を目の当たりにして、脇汗が滝のように流れ、猛暑日の熱気が残る夕暮れにヒンヤリしたモノを感じました。
「てめぇ…、『不正解の音』も、『不正解』しやがって…、」
と、地獄の底から響いてくるような声で、『あいこ』が怒りをあらわにすると、情け容赦無い蹴りが…、(これより先の描写は、青少年の育成に、ただならぬ悪影響を及ぼすものと判断し、読書の皆さまのご理解をいただきました上で、割愛させていただきます。)
…と、なってしまい、僕はもういたたまれませんでした。
これは『元カップルの喧嘩』の域を飛び抜けて、『命のやり取り』になってました。『ここで止めなきゃ…、ヤバいっ!』と思いましたが、身体が言うことを聞きません。『巻き添えを食うかも…』と思うと、息も出来なくなりました。
僕は完全にパニクって、思考回路が一時停止しました。するとまた、あの白い空間の中に、僕はポツンと立っていました。どこからか、バカ姉の声が響いてきて、
『付き合いなよ~、付き合いなよ~』
のフレーズが、頭の中でコダマしました。ふと僕は無意識に、『飛び込み』をしてしまう人のように、フラ~ッと『あいこ』の横に近づいてしまいました。
「何だぁ、オラーッ!?」
『あいこ』の怒鳴り声を聞いて、僕の意識が現実世界に呼び戻されました。この時の『あいこ』の顔を、真ん前で見てしまった恐怖感を、何と言い表わしたらいいか…。
例えるなら、『獲物の喉笛に噛み付こうとしているライオンの、ガバッと開いた口との間に、頭を突っ込んでしまったような感じ』でした。
ここで怯んで何もしなかったら、僕は『ショウたん』の頚椎骨もろとも、頭蓋骨を『バキバキッ!』と噛み砕かれて一巻の終わりです。
実際には、顔面か肋骨に『右肘』を突き刺されてから、『蹴り』で吹っ飛ばされるか、それとも叩きつけられるか、…を、されてたと思います。
「『あいこ』さんっ、つっ、すっ、好きでーーーすっ!!」
とっさに僕は、バカ姉の暗示に導かれるまま、『付き合って下さい』と言おうとしたところを、間違えて『好きです』と、叫んでしまいました。