勉強が一段落して、夜中に台所でひとりコーヒーを飲んでいると、赤い鼻を
した親父が苦しげな顔でやってきた。
「熱冷まし、どこやったかな?」
どうやら熱が上がって眠れないらしく、冷蔵庫を開けてガサガサとやってい
る。
正月早々難儀なことで、と気の毒な親父を横目で見遣りながら、不意に親父
が風邪をひいた理由に思いあたって、俺は意地悪な顔を親父に向けていた。
「どうせ美優とキスでもしてたんだろ?。」
風邪をひいて寝込んでた美優を膝の上に抱き抱えながら、小さな尻をいやら
しい手つきでまさぐって、夢中で親父が唇を吸っていたのは、つい一週間ほど
前のこと。
そりゃ、風邪もうつるわな、と皮肉混じりに言ってみたら、親父は、熱があ
りすぎて、俺の言った意味がわかったのか、わからなかったのか。
「ああ・・・」と、照れたように笑って、目的のものを見つけると、そそくさ
と二階へと上がっていった。
お袋が死んでからは、男手ひとつで俺と妹を育ててくれた親父。
経済的にそんなに余裕もないのに、俺を大学までいかせてくれる。
絶対に合格する自信はあるから、俺が大学に行くようになれば、妹とふたり
だけで暮らすことになる。
今まで、苦労してきたんだから、ご褒美も必要だよな、などと俺は、このい
けない親父を軽蔑する気にもならなかった。