「お姉ちゃん」と駆け寄って来たのは、弟の面影がある姪。転びそうな、ぎこちない足取りで駆け寄る子供に、思わず私の手がのびる。子供を産むのは、痛いし命がけだから恐いのに、欲しいと思ってしまう。人形みたいに小さくて可愛い姪を抱くだけで、身体の奥が疼いてしまう。(もし、あの時産んでいたら、)と後悔する自分が身勝手で嫌になる。純粋な子供の瞳に、作り笑顔を見透かされそうで不安になる。「今日も一緒に、お風呂に入ろうか?」って言ったら、元気に頷いた。(私も子供の頃は、こんな純粋だったかな?)と思うと、汚れてしまった自分が恥ずかしくなった。ゴハンの後で、脱衣所に行くと、「パパ、オモチャ!」と言って、弟を呼びつけた。急いで浴室に逃げ込もうとしたけど、姪の前で身体を見られて、恥ずかしくなった。(今さら何を恥ずかしがっているのだろう?)自分でも解らない。胸がキュンとした。うわのそらで、子供の話す事を聞いていた。お風呂を出ても、ボーっとしたままパジャマを着て、子供に服を着せていた。また、前回みたいに子供が寝たところで、弟が布団に入ってきた。「私、結婚して良い?」まだ、相手も決まっていないのに、話を切り出してみた。「結婚するの?」「させたいんでしょ?」「私の部屋も無くなるみたいだし、叔母さん達には随分お世話になってるし、」って言ったら、「本気で言ってる?」と聞いてきた。何だか無性に腹が立って、「私が、嫌だって言ったら、どうなるの?」「私だって、ずっと、お姉ちゃんのままが良いのに!」弟に何を求めているのか、何て言って欲しいのか、自分で自分の言ってる事が分からない。そして、これまで隠していた思いが、口から出た。「私と逃げて」言った直後、自分の身勝手に情けなくなった。(最低だ!)ずっと「良い娘」「良い姉」を演じ続けて来たけど、私の中には常に秘めてきた「ワガママな自分」がいた。弟に恋をしてる事に気づいた時から、ずっと隠してきた思いが一気に噴き出した。それは、家族も、仕事も、何もかも捨てて、弟と二人で逃げる事。(もうダメ、限界だ)と思ってたら、「いいよ」「一緒に逃げよう」と言う返事で、私は我に帰った。「バカね、冗談よ」「本気にした?」「からかってみただけ」「だって、結婚して、叔母さんの家を継いだら、旦那に稼いで貰えるし、安心して生活できるんだし、、、」空虚な強がりを並べた自分が、バカみたい。そんな私を後ろから包むように、弟が抱いてくれた。「本当に、さっきのは冗談なんだから、信じないでね」「お姉ちゃんは大丈夫よ」と、聞かれてもいない事を口にしながら、また弟に抱かれた。
...省略されました。