中学に入学した年のこと。少し雰囲気が違う坂口という男子がいた。クラスの男子を見下すような態度で、「山添君はアイドル歌手のXXが好きなのかい。中学生にしてはちょっと幼稚だね。僕はビートルズがお気に入りさ。」などと、何かにつけて大人ぶる。クラスの女子を見ても「かわいい顔をしてるけど、体のほうはまだまだだね。」などと言う。
こういう態度なものだから、クラスメートからは浮いていた。でも、休み時間になると人だかりになっている。それは、ヌードグラビアが多い写真雑誌とか、外国の無修正ポルノ雑誌をこっそり持ち込んで見せていたからだ。「山添君も見たらどうだ。女のマンコを見たことないだろ。そう、これが男女のセックスというやつだよ。男のチンポから出てるのが精子さ。君も自分で出してるだろ。」と蔑んだように笑う。「君たち、これ欲しかったらあげるよ。内緒でね。」と言うと、男子で取り合いになる毎日だ。
担任もうすうす知っているようで、「ヌード写真集を仲良く楽しむご家庭もある。そんなのはもってのほかというご家庭もある。いろんな考え方がある。ご家庭内で決めていただくことに何か言う立場ではないが、学校には持ってこないでほしい。」と、クラスで話をすることがしばしばあった。
坂口は中学入学のとき、遠くから引っ越してきた奴だ。父親は国立大学だか国立病院だかの勤務医で転勤が多いらしい。母親も医者だが、転勤の多い父親は単身赴任してきた。父親は奴を手元に置いて、将来医者にさせるために英才教育を施したいらしい。夫婦別居も長いらしく、生活が不便だからと家政婦を雇っている。この家政婦、実は母親の差し金で父親が浮気しないように、夜の世話のためにもつけているらしい。そういえば、坂口の家にプリントを届けに行ったときに出てきた、家政婦を名乗る女性は随分若く女子大生ぐらいに見えた。
坂口と親しい奴に聞くと、父親から中学入学の祝いとして、家政婦に「筆おろし」して貰ったという。父親が夜勤や出張で家に居ないときには、家政婦を自由に使っていいそうだ。僕ら中学生がセックスを夢見て毎日何回もオナニーしているのに、坂口はオナニーではなくセックスを楽しんでいたわけだ。それで妙に大人びてるんだなと納得した。
「性で悩んで勉強に差し障るのはよくない」という父親の教育方針で、性の関係はおおらかに許されていたらしい。しかし、坂口の成績は中の上ぐらいでぱりっとしなかった。中学卒業前に転校していったので、結局、医師になれたのかどうかは知らない。