母から逃げ出した俺はベッドで毛布に包まって震えていた。母に嫌われたかもしれない。家を出て行く様に言われるかもしれない。頭の中でそんな考えが何度も繰り返される。だが母はすぐには俺の部屋に来なかった。部屋のドアがノックされたのは夕方になってからだった。「晩御飯出来たから…お父さん帰ってくる前に一緒に食べよ。」母の声はいつも通りの優しい声だった。普段の俺なら母の声に反応して直ぐに部屋を出る。でもこの日はベッドの上で息を潜める事しか出来なかった。母はそんな俺の様子を見る様にしばらく部屋の前から離れないでいた。「りく…お母さん、どうしてあなたがお母さんにああいう事をしたのか分からない。でも怒ってる訳じゃないよ。」俺は何も返事が出来ない。「男の子だからああいう事に興味があるのは分かるよ。今は家にいるから女の子と触れ合う機会もあまり無いしね。でもね、お母さんに、っていうのは…ちょっと違うと思う。」否定された事で俺は恥ずかしさと申し訳なさで泣きそうになってしまった。「だからね…その…もし、そういう事に興味があるのなら…お金でお願い出来る女の子に会ってみる…っていうのはどうかな?」驚いた…母が俺に風俗に行く事を勧めるなんて。「別に無理にとは言わないのよ。ただ、興味がある事なら少し外に出るきっかけになるかな、って。お母さん以外の人と話すのもりくの気分転換になるかもしれないし。」母は多分悩んだんだろう。俺が外に出れないストレスであんな事をしたんだと思って。色々悩んで精一杯考えてこの答えを出したんだと思う。俺を自分から遠ざけようとか、気持ち悪い、みたいな感情が無いことは声で分かる。母の優しさに自分の身勝手さが嫌になる。俺は起き上がり、ベッドから降りて部屋を出た。「ごめん、お母さん…本当にごめん。」「怒ってないって言ったでしょ?ほら、ご飯食べよ。」母は笑顔で俺を許してくれた。女の子と、みたいな話は恥ずかしくて俺も母もこの時は触れる事が無かった。翌日、もう母にマッサージする事はないだろうなと思って俺は自分の部屋に居た。そこに足音が聞こえてきてコンコンと部屋をノックする音がする。返事をすると部屋のドアが開いた。そこに居たのは俺がプレゼントした薄手のジャージを着た母だった。「今、時間あるならちょっと手伝ってくれない?ちょっと服の整理がしたいのよ」時間ならいくらでもある俺は素直に頷いた。それから俺と母は一時間程、要らない服を纏めたり入れ替えたりした。「もう大丈夫ね。思ったより量があって結構疲れたわ。」「俺もう部屋に戻って良いの?」「え?いつものマッサージは?」「でも…」俺が返事に困っていると、母は俺が何を考えたか察して聞いてきた。「昨日の事は気にしてないから。それに…昨日話した女の子の事…本当にお願いしてみない?」母は俺が単純に女の体に興味があってあんな事をしたんだと思ってる。だから相手が誰でも良いんだろうな、と。それは確かにそうなんだけど、母以外の相手と二人きりで過ごすのは今の俺ではまだ考えられなかった。「…止めとく。お母さん以外の人とはまだ二人きりになれる自信が無いから。それにごめん、また変な事してお母さんに嫌われたくないからマッサージも止めとくよ。」母は少し困った様な顔で俺を見た。「…お母さんね、昨日はビックリしたけど、りくの事を嫌ったりなんかしないよ。女性の体に興味がある年頃なのも分かってるから。りくは…お母さんの体を触ったら…そういう気分になるの?」「…うん。」誤魔化そうと思ったけどあんな事をした以上、嘘は付けない。「そっか…じゃあ…仕方ないかな。」「うん。ごめんね…お母さん。」「謝らないの。待って。」謝って部屋に戻ろうとした俺を母が呼び止めた。「やっぱりマッサージしてもらおうかな。」「…でも」「…こんな事お母さんが言うのは恥ずかしいけど…ちょっとくらいならお母さんの体…触っても良いから。」「…え?」「りくが苦しんだり悲しんだりするのはお母さん見たくないから。それでりくの気が晴れるならお母さんは大丈夫よ。」母は優しい笑顔でそう言った。「言ったでしょ?りくの事、嫌ったりなんかしない。りくになら体触られても別に嫌な気分にはならないから…もの凄く恥ずかしいけど。」段々声が小さくなって恥ずかしそうに俯く母が突然バッと顔を上げて俺を見て見た。「でも、ちゃんとマッサージもしてね。そのあとね。」母は照れているのを隠す様にそう言った。
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