「お兄ちゃん、ご飯できたよ」
シホの声で、僕は目を覚まして、ダイニングに向かうと食卓についた。シホは、
何だかご機嫌で、鼻歌を歌いながら、次々におかずを運んでくる。
「ビール飲む?」
そう言って、冷蔵庫のドアに並ぶ缶ビールを指さす。
僕は、黙って頷くと、シホはコップとビールも僕の前に並べてくれた。
食事が進み、ほろ酔いになったころ、僕はやっとさっきのことを切り出した。
「シホは、イヤじゃなかったの?」
「ん? 何が?」
シホは、僕の方を見ずに、問い返してきた。
「いや・・・、だからさ・・・」
僕が言い澱んでいると、
「さっきのこと?」
『うわ、そんなストーレートに口にしちゃう?』
僕は、心の中で驚きを隠せなかったが、頷いて、
「うん、怒ってないの?」
妹は、不思議そうに僕を見つめ、
「怒ってないよ。どうして?」
と、おかずを口に運びながら、また、質問をする。
「どうして・・・って・・・」
「お兄ちゃんは、怒ってるの?」
「いや・・・」
「それとも、後悔してる?」
「いや・・・、それもないけど・・・」
シホは、箸をおいて、お茶を一口すすると、真っ直ぐに僕を見て、
「わたしは、うれしかったよ。ドキドキしたし、ずっと、待ってたし」
「待ってたって、お兄ちゃんを?」
「そうだよ。」
「いつから?」
「お兄ちゃんが、高校へ行ったころからかな・・・、正確には、良く覚えてな
いけど」
「え? 僕が、高校の時って、シホ、小学生じゃん」
「そうだね。でも、そのころから、男の人と女の人の体の違い、とか耳にする
ようになって、お兄ちゃんしか、いないって思ってた」
「え? え? それって・・・。」
「エッチのことだよ」
『・・・うわぁ、これも変化球なし・・・、今の娘って、すごい!』
「そっかぁ・・・」
「お兄ちゃん、お風呂にするから、早く食べちゃって」
僕は、大急ぎで、ご飯を掻き込むと『ごちそうさま』と手を合わせ、汚れた食
器をキッチンの流しへと運んだ。
「じゃあ、お風呂、入るよ」
妹にそう告げると、
「え? 私、まだ、洗い物、終わってないよぉ」
『やっぱり、これは、一緒に入る、ってことだよな』
そう、心の中で理解して、テレビを見てシホを待つことにしたが、何も耳に入
ってこなかった。
「お待たせ」
シホの声で我に返り、振り向くと、シホが布巾で手を拭いていた。