実家に帰ってきた姉の由香里を一人暮らしをしているアパートまで送り届けているときだった。姉とのドライブは、何より楽しかった。車でかける音楽は、姉も俺も好きなミュージシャンの曲で、話す小説の話題も二人が好きな作家の話。それは当たり前だった。姉の部屋にあったCDを聞き、姉の部屋にあった小説を読んできたのだから。
「加奈ちゃんとのデートだったのに悪いわね」
「振られちゃったんだよ」
「えーッ」
姉が両手を上にあげた。
「デートそっちのけで、姉ちゃんを送り迎えするのは、許せないんだって。シスコンとは付き合えないって」
姉は黙り込んでしまい、しばらくしてぼつりと言った。
「ゴメンね。に甘えすぎたね」
「姉ちゃんが悪いわけじゃないよ。俺、確かに実際問題シスコンだもん。加奈に言われたよ、『お姉さんと、私をいつも比較してるって』言われたらそうかも知れないって思った」
姉は助手席に座ったまま黙って聞いていた。
「姉ちゃんは、俺にとって特別なんだよ。小さい時からずっと俺の事面倒見てくれたし、大学に入れたのも姉ちゃんが家庭教師してくれたからだから。姉ちゃんが、兄弟じゃなければいいのにって思ってたよ。兄弟じゃ結婚できないから。姉ちゃんより素敵な女性にまだ出会えないんだよね。」
気づくと姉への思いを素直に語っていた。というか熱く語っていた。思春期に姉を思ってオナニーにふけっていたこと、姉の下着をこっそり持ち出したことなど、姉への思いは異常なことは自分でもわかっていた。そんな気持ちが関を切ってあふれてしまった。
「俺、姉ちゃんの事男として愛してる」
あー。言ってしまった。何で言ったんだろう。しばし沈黙が続いた。
「ありがとう。って言うべき?・・・ゴメン・・・何にも返事できない」
それっきり、姉のアパートに着くまで沈黙が続いた。
姉30歳、公立高校の教師。俺28歳、地元のそれなりの会社の会社員。
姉の部屋で会話もないままコーヒーを一緒に飲んだ。
「じゃ、帰る。また来るときは電話して、迎えに行くから」
姉がうつむき加減で小さく首を横に振った。
「どうしたの。俺が変なこと言ったから。謝るから許してよ」
姉が私に抱き付いてきた。というより160cmほどの姉が頭を俺の胸にゴツンと当ててきた。
「何で謝るの?・・・・・・・・・」
そのまま無言で姉のアパートを出た。