第014話【内風呂】
私たちは、親父さんの計らいで貸してくれた一番奥の部屋へと入っていきました。
私も、もう十数年通っているこの宿ですが、宿泊したことはなかったので、一通り部屋を見て回りました。
どんな作りになっているのか、部屋には何がるのかなどを拝見したあと、和風テーブルの横に座布団を敷きます。
テーブルの上には、茶碗2つに急須、茶筒、ポットが置いてあり、ポットにはお湯が入っているのかなどを確認してみると、今さっき沸かしたであろうお湯が並々と注がれておりました。
どうやら、宿泊者が来た時並の準備をオヤジさんはしてくれていたようです。
その私の行動を見て、お茶が欲しいのかと思った美樹が、素早くお茶をいれてくれます。
「粗茶ですが…どうぞ。アツキさん。」
そう言いながら、くすくすと笑うのです。
「温泉に泊まった時に部屋で出すお茶も、そう言って出すものなのかな?」
そんな事を言った私に、
「そういえば、そういう言い方って変ですよね?」
「だよね?そういうのは、自宅で自分が用意したお茶の時だよね?まあ、こんな宿だから、粗茶なのは間違いないと思うけれどね。」
などと、実にくだらない話をしていました。
「でも、アツキさん凄いですよね?いつもこんな待遇なのですか?」
と、美樹が私に聞いてくるのですが、十数年通って、こんな待遇を受けたことのない私としては、今回の理由は、ただ一つでしかない事を理解していました。
「ないね。俺が思うに、美樹ちゃんがよほどオヤジさんに気に入られた結果だと思うよ?さっきさ?この部屋のカギを渡された時、オヤジさん美樹ちゃんの事ベタ褒めだったからね。」
「え?そうなのですか?」
「うん。何かね?女優やアナウンサーみたいにベッピンさんだとか、いい所のお嬢さんみたいに清楚だとか言っていたよ?」
流石に、その後に言われた、ボインちゃんと言う件までは言えなかったのですが、彼女にとっては、そう言われたという事がかなり嬉しかったようです。
「あはは。お嬢さんでも美人って訳でもないのですがね?」
(いえいえ…オヤジさんが言った事は、私も同意見なのですよ。)
「さてと…さっきも言ったのだけれど、俺、体洗ってくるの忘れたんだよね?今度は、内風呂に入って、体洗ってくるよ。すぐ戻ってくるから、美樹ちゃん待っていてくれない?」
彼女にそう告げ、すくっと立ち上がると、
「あ。私、内風呂も見たいので、一緒に行きます。」
そう言いだしました。
確かに、狭いとはいえ、内風呂の位置も教えておいた方がいいなと思った私は、じゃあ、一緒に行こうかと彼女の手を取りました。
部屋を出て、再び露天風呂のある方向へと移動します。
内風呂は、露天風呂に行く途中の廊下の角に入り口があります。
「あ。美樹ちゃん、そっちが女湯ね。俺は、こっち。」
内風呂の入口を指差して説明をします。
「わかりました。でも、アツキさん?出るタイミングはどうしますか?」
「ああ。内風呂って言ってもねえ。どうもこの宿は、そもそも混浴だった所を無理やり男女別にしたみたいだから、壁が一枚あるだけだから、声掛ければお互いに聞こえるんだよね?だから、俺が出る時に声掛けるよ。」
「わかりました。じゃあ、合図待っていますね。」
さほど広くない脱衣場で、素早く服を脱ぎ、湯殿へと入って行きます。
脱衣場には、脱がれていた服が無かったことから、中に人がいないのはわかっておりましたが、予想通り、湯殿には誰もいませんでした。
隣の女湯からは、私が入った後少々遅れて、ガラガラと引き戸が開けられる音が…恐らく、今、美樹が入ってきたのだろうと想像できました。そして、私と同じく一人であることも。
その頃私は、体を洗うために、湯掛けを行っておりましたので、その音も美樹に伝わっているのだろうと思っておりましたら、すぐに…
「アツキさん?いますか?」
と壁の向こうから声がしてきました。
「いるよ。こっちもだけれど、そっちも人はいないみたいだね。」
「あ、はい。私だけです。でも、アツキさんが言ったとおりですね。普通に会話で来ちゃいますね。ここって。」
「そうそう。もともと一つの湯殿だったものをちょっと直して二つにしただけだから、声は筒抜けなのさ。」
「はい。でも、便利で良いですよね?」
「でしょう?体洗ったら、声掛けるから。これなら、すぐ気がつくでしょう?」
「はい。」
私は、備え付けのボディーシャンプーをタオルに付けて、体をごしごし洗いながら、美樹と話を続けていきました。
イチモツもいつも以上に丁寧に洗いながら、こいつが、今日も活躍するのだろうなと想像していました。
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