武威との交際から1年8ヶ月が経っていました。
その日武威から「大事な話があるが家まで行きたい」と言われ、仕事が終わってからふたりでタクシーに乗り私の家に向かいました。
車中はほぼ無言です。
少し、嫌な予感が過りました。
家について、鍵をかけると、武威は大きく息をついて「やっと話せる…」と言いました。
「るか、你到底爱不爱我?」
「え?」
「あー…俺のこと愛してるか?」
「うん、私は武威さんのこと愛してます。」
「真的吗?」
「本当だよ。どうしたの?」
ちょっと煙草吸わせてくれ、と武威は言うと、ゆっくりと吸い、煙を吐いて続けました。
「るか。中国行こうか」
「いいよ。旅行?」
「違う。」
「お仕事?」
「違う。」
「え?」
少しの沈黙のあと、武威は私の目を見て言いました。
「上海で暮らそうか。中国に行って結婚しよう」
これが、普通のプロポーズではないことはすぐに分かりました。
中国黒社会の一員と「婚姻関係」になり渡航する。
それは私も、黒社会の一員となり生きていくということです。
意味はすぐに分かったけど、私には逡巡する間もありませんでした。
「ありがとう。わかった一緒に行こ。パスポートすぐ手配するから」
「パスポートは取るな」
「どうして?」
「俺と同じ手段でないとダメだ。お前のパスポートは俺が用意する。」
旅券偽造での出国。
日本へは二度と戻れない可能性がありました。
それでも私は、徐武威のために人生を犠牲にしてでも一緒に生きて行きたかったのです。
「わかった…身内にも渡航のことは言わないほうがいいね?」
「ああ」
「誰にも言いません。武威さんにすべて委ねます。」
「ああ…俺は組織も抜ける。誰もこのことは知らない。パスポートは10日後にできるだろう。」
そして武威は私に
「るか、我爱你。这辈子…」
と言って、ゆっくり時間をかけて私を抱きました。
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