武威と1年半ほど交際が続いたある日、私は初めて彼が外で「仕事」に向かう姿を見ました。
お店で氷かなにかなくなってしまい、東通りにあった「エニィ」というスーパーへ買い出しに行ったときのことです。
東通りの奥に、黒い人影が3人見えました。
3人とも真っ黒なマオスーツを着て、サングラスをかけていたんです。
そのうちのひとりが武威でした。
武威は左手にアタッシュケースを持ち、無表情にまっすぐ前を見つめていました。
他のふたりが武威に話しかけようとすると、右手を軽く上げて制止するような仕草をしていました。
とても話しかけられる雰囲気ではなかったし、私はここから一刻も早く立ち去らないといけないと感じました。
そうしているうちに、3人が私のいる方へ歩き始めました。
踵を返すのも不自然です。私は、なるべく分からないように、俯いて3人とすれ違いました。
でも、確実に武威は私を見ていました。
今まで感じたどの視線とも違う、無感動で無機質なそれは、私にとって完全に別人だと感じたのです。
この日の遭遇については、お互いまったく触れることがありませんでした。
武威の「仕事」は分からなかったけど、分からないまま触れないことが、「徐武威の女」である条件のように感じていました。
※元投稿はこちら >>