武威の背中には、縦に数十cmの大きな傷がありました。
その日彼が服を脱いだときに傷が目に入り、
「中国マフィアは刺青しないのかな?」
「傷があるからできないのかな?」
と、少し他人事のような感想でその傷を見ていました。
「武威さん、その傷どうしたの?」
「中国にいるとき斬られた」
「まだ痛い?」
「ときどきひきつれるね。もう昔のこと」
「触ってもいい」
「ああ」
「キスしてもいい?」
「負けた証拠だ」
「関係ない。私がそうしたい」
私は武威のこの傷が大好きで、肌を合わせるたびに触り、口付けていました。
あとから聞いたら、武威の組織では死んだときに身元の証拠を残さないために刺青はしないそうです。
その日は何度も抱かれて、落ちるように眠り、翌朝別れて家に戻りました。
夜、出勤するとオーナーに呼び出されました。
「るか、お前徐武威とホテルに入っていくのを見たと言われてるぞ」
「はい」
「お前、勝手なことをするなよ?廣瀬さんに知れたらどうする?」
「でも私…」
「でもじゃないだろ?廣瀬さんいなかったらお店ダメになっちゃうよ。そしたら女の子みんな路頭に迷っちゃう。お前一人が我慢すればみんな普通に働ける。いいね?」
私の店は、Yという組織の廣瀬という男が「用心棒」をやっていました。
廣瀬は私をとても気に入っていて、オーナーは私を廣瀬の情婦としてあてがっていたのです。
「お客様来るので」
オーナーの話に返答せず、その日は仕事をしました。
この話を武威にしたら、彼はどう思うだろうか。
嫌な思いをさせたくない。でも嘘をつきたくない。
悩んで、悩んで、仕事を終えて武威に「今から会いたい」と連絡をしました。
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