後日談暖 その3暖 彼の場合
玄関のドアを開けて、私を押し込み、逃げ出さないように、彼は後ろ手でドアに鍵をかけた。
用なんて何もないよ?
終わってるもの。もともと付き合ってない、都合がいい所有物だったでしょ?
「何であいつと付き合ってる」
「冗談かと思った。いつからそうなった?誰がいいと言った?俺がいいと言ったか?」
何いってるの?全然わからない。
じゃあどうして、ずっと放っておいたの?何度も電話したのに、何で無視したの?なぜAに私のこと話したの?
醜い感情が爆発した。
質問に彼は何も答えなかった。
私も彼も雨でびしょ濡れになって、体の芯から冷えてきた。寒さで体が凍えてしまい、震えが止まない。いてもたってもいられなくなって踞ってしまった。
帰るから、開けて。
彼は玄関ドアからこっちに向かってきた。動けない私を猫掴みして、浴室に閉じ込めた。
「何もしない。風邪引くから風呂入れよ」
あまりの寒さに耐え切れなくなって、シャワーを浴びた。体温が戻ってきた。中に掛かっていたバスタオルで体を拭いていると、ドアが開いて全裸の彼が入ってきた。
慌ててバスタオルを身体に巻きつけた。
シャワーを浴びながら、無言でじっと私を見つめている。逃さない目だ。
一瞬目を瞑った、今だ。
逃げようとして、身体を掴まれた。無駄だった。
「こっち来い」
腕を強く掴まれて、ベットへと引きずり倒された。
私の身体に彼が重くのしかかって、じっと見つめている。私はもがいていた。
いや、帰える。
「だめだ、帰さない」
彼の良い声が耳に響いて、体がビクッと跳ねた。
「俺の所に戻って来い」
この彼の声で囁かれたら、どんな事も抗えない。
それほど彼の声は強力な催淫剤だった。
バスタオルが解け、ぎゅっと強く抱きしめられた。
味わうように、確かめるように、唇を吸い、舌を絡め、蕩けるような深いキスを何度も繰り返した。
身体を起こされ、
「本当にいやらしいな」
耳を舐め、言葉責めされながら、アソコに指が出し入れされている。
「ほら、よく見ろよ」
片方の手で、足がグイッと開かれて、指2本が音を立てながら挿入されているのが見える。身体がゾクゾクして堪らない。
もう、何も考えられなくなっていた。
「ほら、あいつより俺のがいいって言えよ」
彼の固くて大きなモノが挿入され、あまりの快感に嬌声をあげて何度も逝ってしまった。
土日の2日間、私達は寝食を忘れてセックスに没頭して、ひたすら体を貪った。彼にここまで求められたのは初めてだった。
「ピンポーン」
日曜の夕方近く、彼のアパートのチャイムが鳴った。何度もしつこく鳴っていた。
携帯を見ると、Bさんから何十件も着信とメールがあった。
我に返った。
彼はチャイムの電源を切って無視した。
今度は彼の携帯にBさんから着信があった。Bさんは今日帰ってくる予定だったか?もしかしたら、早めに帰ってきたのかもしれない。
だとしたら、ドアの外にいるのは間違いなくBさんだ。
心底、恐かった。
彼を振り切ることが出来ずに、体を許してしまった。
誠実で優しいBさんをこんな形で裏切ってしまった。自分が悍ましくて、今すぐ消えて無くなりたいと思った。
彼は、
「これでおまえとは、終わったからな」
と私の顔を見ないで呟いた。
虚しさでいっぱいになった。
Bさんに、あの日連絡取れなかったことを追求されても、何も話せなかった。
その後、理由を告げずに、一方的にBさんと別れた。善良なBさんを傷付けたくなかった。Bさんは「納得出来ない」と一歩も引かなかった。
でもBさんはきっとわかっていたと思う。気付かないふりをしていた。
彼が原因を作ったとしても、自分が悪いと思いつめた。
そして、次の年の3月、人事で新しい課長が配属されたことで状況が変わってきた。
彼は課長と不仲だった。仕事でミスを連発するようになって、良く指摘されるようになった。
ある時、彼は頭に血が登って、課長を殴って怪我をさせてしまった。
この事で、自主退社という名目のクビになった。
これが彼の転落の始まりだった。
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