後日談 その2暖 彼の場合
私と彼の出会いは職場だった。
入社して数ヶ月、一度も会ったことの無い人がいる。それが『彼』だった。
長期出張に出ていて、もうすぐ戻ってくる。
「もしもし」
ある時、会社に彼から電話が入った。
その受話機の向こうから聞こえてくる、中音の鼻にかかった声にドキッとした。声フェチの私にとって、彼の声は理想の声だった。はじめての会話で、彼が気になる人になった。
長期出張から戻ってきた彼と、同じ部署で仕事をするようになって、大人のスマートさと子供の無邪気さを併せ持つ、母性本能をくすぐる彼に、完全に恋に落ちていた。
私の方から告白し、OKをもらって付き合い始めた。
そして段々彼の側面が見えてきた。
外面が良く、わがままで見栄っ張りで女好き。
私に対して、連絡はまばら、必要な時だけ呼び出されているような、都合のいい女になっている気がして、不安でいっぱいだった。
そして放置状態の中で、Aとの悪夢が起きた。
彼とは音信不通だった。自然消滅…。私はすべて忘れることにした。
社内では、Aとの一件以来、宅飲みに参加した男性同僚による私の良くない噂を流していた。一人で残業していると、
「やらせてくれる?」
「おっぱい大きいね。触らせて」
「感度がいいらしいね。今夜どう?」
など言葉によるセクハラがエスカレートしていた。
それを見かねたBさんが、何かと助けてくれるようになった。
このBさんは、彼と同じ同郷の先輩で、器が大きくて優しい好青年風の人だった。
Bさんの優しさに甘えて(Aとのことは言えないけど)彼に放置されて自然消滅したことを話してみた。
Bさんはすでに事情を察していた。
彼が病的な女好きで、今まで苦しんだ女性がたくさんいたことを知った。
「きみのことが心配だ。放っておけない」
「落ち着いたら、俺と付き合ってくれないか」
Bさんが私のことを思い気遣ってくれているのが、とても嬉しかった。この日を境に、Bさんと徐々に距離が縮まっていって、そして付き合うようになった。
Bさんのセックスはとても優しかった。
まるで壊れモノを扱うように、そっと私の肌に触れてくる。長い指が乳首に触れる、その感触が何とも言えない気持ち良さだった。
Bさんはペニスが小さい事でコンプレックスを持っていた。でも、元々アソコが狭い私には、そのサイズがピッタリだった。
BさんのペニスがGスポットを刺激する度に、快感の波が押し寄せて、全身を貫いた。初めて『逝く』体験をした。
耳元で甘く「好きだよ」と繰り返す囁きと、優しい愛撫、愛情をたくさん注がれて、心も体も多幸感でいっぱいだった。
Bさんとの穏やかな日々が私の心を癒やして、誰にも言えない辛い出来事が徐々に薄れていった。
付き合ってしばらくして、Bさんの家に彼が来ると電話があった。その日は二人で夕飯の支度をしている最中だった。
チャイムが鳴った、彼だ。
玄関先でBさんと話している。
私はBさんの指示で、奥の部屋にいた。
玄関からはテーブルに二人分の食事が並べてあるのが見えたようで、
彼「へー彼女できた?」
B「ああ、さくらと付き合ってる」
彼「はあ?なに?冗談だろ」
B「お前が悪いんだ、さくらをほったらかしにするから。お前、最低なんだよ!」
彼「はあ?あんたにそんなこと言われる筋合いねぇよ」
「あいつがいるのか?出せよ、なんでいるんだよ」
彼がBさん宅にズケズケと上がり込んできた。Bさんが彼の肩を掴んで、玄関に押し戻した。
B「二度とさくらに近づくなよ」
Bさんが一喝してくれたことが、嬉しくもあり、同時に彼に対して僅かな違和感があった。
玩んだんでしょ私を。
未だに自分の所有物だと思っているの?
余計な事を考えるのは止めた。
Bさんとの幸せな生活のために前を向いていくんだ、と自分に言い聞かせた。
木曜日からBさんは土日を跨いでS県に出張に行っている。
私は会社の気心の知れた同期のメンバーと居酒屋で楽しく呑んでいた。
閉店まで盛り上がり、帰ろうと外に出ると、酷い土砂降りだった。
アパートまでタクシーで帰ろうと、傘をさして幹線道路で待っていると、目の前に見たことのある車が停まっていた。
誰かが降りてきた。
『彼』だった…!
え…何?どうしたの?何でここにいるの?
彼に手を強く掴まれて、無理やり車に乗れらそうになった。
恐い、動けない…!
「仕事の件でC(同期)にメールしたら、居酒屋でおまえたちが呑んでるっていうじゃねーか」
「用があるから来いよ」
土砂降りの中で揉みくちゃになりながら、ついに車に乗せられてしまった。
信号待ちで、ロック解除して外に出ようとしても、ドアロックされていて外からでないとドアが開かない。逃げられない。
そのまま、彼のアパートに連れて行かれた。
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