後日談 その5 私の場合
※長文です。
私は『彼』と関わっていく中で気付いたことがあった。『歪み』だ。それは彼と私の共通点でもあった。
彼の母親は幼少時に視覚と声を失った。父親は母親がそうなる前から暴力を奮っていたらしい。
そういった事情から、愛情の薄い家庭の中で、屈折した感情を秘めて人一倍愛情に飢えて、様々な女性を渡り歩いてきた。
そして『愛を向ける者を痛めつけたい、それでも愛してほしい』欲求、この『歪み』が私に向けられていった。
私は、教育熱心な厳しい母と、家庭に無関心な父の、極端な家庭で育ってきた。
母の思い通りにならない事は「躾け」と言って、あらゆる暴力で支配されていた。そんな状態で父はあまり家に帰って来なかった。
とにかく母が恐ろしくて、怒らせないように総てに品行方正でいるよう心掛けた。それはとても窮屈で息苦しかった。
そして小学1年から始まった、繰り返す男性からの痴漢行為。中でも幼馴染、ドクター、教師からされた性的なイタズラは今も忘れられない。殊に父からの行為は…
痴漢行為が繰り返されるうちに「私は汚れている」と思うようになって、自分への嫌悪感でいっぱいになっていた。
その行為が許せないのに、男性からされた事を思い出すと、変な気持ちになってしまう。
少しづつ自分のアソコに触れるようになって、自慰の気持ち良さを知ると、息苦しい生活、嫌な事をすべて忘れさせてくれるように感じた。
でも我に帰ると、罪悪感に陥って、余計にムラムラしてしまうのだ。すべて悪循環。
痴漢行為をされる度にドロドロした欲求が渦を巻いていく。私は歪んでいた。
それでも普通に恋をして付き合っていた時期も少しだけあった。
大きく変わったのは、『彼』と出会ってからだった。彼と関わって、怒り、悲しみ、絶望して、それでも許したのは、歪んでいる者同士の理屈ではない部分での共鳴だったかもしれない。
彼と別れた後、私の歪みは益々ひどくなっていた。
新しい営業所で黙々と仕事をこなして、週末になると、誘われるまま、様々な男性に身体を許していた。
もう普通の恋愛が出来ない。汚い自分を求めてくれる、こんな自分でも欲してくれる、寂しくて、その温もりにしがみついていた。リセットの仕方がわからくなっていた。
そんな生活の中である事が起きた。
友人の結婚式で、5歳年下のDと出会った。Dは少し頼りない、世話を焼きたくなるようなタイプだった。
二次会で名刺をもらって、その後連絡をとるようになっていた。
週末、Dが会いたいと言うので、私のアパートに招いた。二人で食事をしていると、Dの携帯が呼び出して、大事そうな話をしている。
どうしたのか尋ねると、Dは知り合いの先輩から、お金を借りていて、期限内に返済出来なかったことで、先輩が怒っているという。
先輩が今いる場所にお金を取りに行くと言って、私のアパートの場所を教えてしまった。もうすぐやってくる。どうか金を貸してほしいと必死に頼まれた。
とても嫌な予感がした。
話が終わると、その先輩がアパートにやって来た。
その男Gは下品な男だった。
私がお金を立て替えてGに返すと、Dと話がしたいと言って図々しく部屋にあがり込んできた。
話が終わったら帰るように言っても、テーブル上のビールを開けて呑み始めて、全く帰る気配がない。
呑んで気を良くしたGは、間取り2DKのベッドルームでフザケている。
怖くなってDに早く帰ってもらうようお願いしても、この男に何か弱みを握られているのか、何も言おうとしない。
Gは「3Pしようぜ」と言って私をベットに押し倒した。激しく抵抗すると、おどおどしながらDが私を庇った。
Gは「つまんねーな」と文句を言いながら、冷蔵庫を勝手に開けてビールを飲んで、ベッドで寝てしまった。
私はこのGが帰るまで、Dと寝ないで過ごすことにした。
Gが鼾をかいて、熟睡しているのが分かると、少し緊張が弛んでいた。
Dは私に迷惑をかけたことを謝り、借金は必ず返すことを約束して、私と付き合いたいと言ってきた。
Dに対して違和感があっても、頼ってくるのを何となく突き放せなかった。
Dは私の顔を引き寄せて、いきなりキスをしてきた。キスしながら凄く興奮しているのが分かった。
嫌ではなかったけど、隣の部屋にGがいることが怖くて、抵抗した。でもDは止まらなかった。そのままセックスして、疲れてしまって、私達は無防備にもその場で寝ていた。
夢の中で自分が宙に浮いている夢を見た。
フワフワして宙にいるような気持ち良さ。
まどろみながら、甘美な快感に声をあげている自分に気付いた。 薄目を開けると、私の体は仕切りに動いていた。
なに…?セックスしてるの?私。
半目でDとセックスしているのだと思った。
顔を横にした瞬間、Dが隣で寝ていたのに気付いて、ハッと目が覚めた。
Dじゃない。私の上にいるのはGだった。Gが激しく動いている。それが分かった瞬間、Gは私の中で果てた。中出しだった。
怖くて声が出せない、動けないでいた。
隣にいるDにこの姿を見られたくなかった。
Gは何事もなかったかのようにスボンを履いてアパートを出て行った。
頭が真っ白になって、体が固まっていた。
いつから?
…夕べDとセックスした後、迂闊に全裸のまま寝てしまった。
朝起きたGがその姿を見て、寝ている私を犯した。「睡眠姦」だった。
Dが起きた。私の喘ぎ声を聞いて、自慰していると勘違いしたDは、嬉しそうに私の体に抱き付いて、セックスを始めようとした。私は拒絶した。Dに早く帰るように促した。
惨めだった。
早くひとりになりたかった。
最初から嫌な予感がしていた。
Gを強く追い出せば良かった、Dを突き放せば良かったと、膣を洗浄しながら、次々と後悔が押し寄せてきた。ゴミ屑みたい…。どうしていつも搾取されるの?自分が嫌い、怒りと悲しみ…声を押し殺して泣いた。
しばらく誰にも会いたくなくて仕事を休んだ。仕事に行けるようになっても、男性が近くにいるだけで吐き気がするようになった。その後生理が来た時は、少しだけ安心出来た。
それからDとの連絡はすべて無視した。
お金もいらない、何も知りたくない、二度と関わりたくなかった。
そしてこの出来事以来、誰かと関係を持つことも、誰かを好きになることも無くなって今に至っている。
こんな過去を持った女を誰が好きになる?
男性が怖い、性行為が嫌になって、今までのことを全部無かったことにしてしまいたかった。
でも、あの出来事は忘れたくても忘れられない。
眠る時にフラッシュバックする。そして睡眠姦されていた時のあの感覚。あの甘い快感、体が覚えている。毎朝目覚めると思い出してしまう。
私は前から薄々気付いていた。精神的・肉体的にも、いたぶられて感じてしまうこのM性癖。認めたくなかった。嫌でたまらない。もう死んでしまいたかった。
でも…
もしこの過去も性癖も、ありのままの自分を知って、総てを受け入れてくれる人がいたら、どんなに心が楽になるだろう。
表の自分は弱みを見せた事はない。
真面目で気丈だと思われている。
取り繕うことも頑張る事もなく、ただ寄り添ってくれる人がいたら、どんなに幸せだろう。
信頼の元、真っ直ぐな愛情で支配されたい。
そんな願望が沸々沸き上がって、ここに来てしまった。
そんな…
妄想を思い描いて…
ゼロかもしれない賭けを、いま始めたばかり。
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