幸い彼もその後やや親しみが増して業務外の軽い話題を時折挟んでくるようになったくらいで、会社では特に変わらず過ごしていました。私も忙しく、彼を見かけるたびに何かがピクッと頭を擡げようとするのを、こんなものは時間で散らすことができるもの、と信じていました。
彼について改めてよく観察してみると、30目前でちょうど一人立ちできてくる年で、上司にも可愛がられ同僚にも好かれ、でしゃばるタイプではないもののよく場を見て気配りのできる、落ち着いた若手の一人で、どう見ても普通のいい子です。交際している子がいるのかいないのかわからないけど、そのうちアッサリ結婚しそうな頃合いに見えます。だから、私はわかってる、大丈夫、と自分に言い聞かせます。
ところが、また何ヶ月かあとの会社の飲み会だったと思います。代行組が多いので、帰りはまた駅まで二人になりました。
でもこの時は、飲み会のはじめから、いえ、飲み会の知らせが来たときから、なぜか私は彼と一緒に帰ることだけを考えていたように思います。
そしてまた、同じような流れで(と言ってもこの日はまだ電車はありました)同じ個室居酒屋に入ったときも、もう二度と隙を見せず、あんなことはなかった事にして、普通の仲のいい先輩後輩という関係に上書きしよう、というのが私が自分のために用意した苦しい筋書きです。
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