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投稿者: やす
◆gy.TeW24SQ
2012年。
早いものであっという間に社会人生活も5年目を迎えました。

僕は大学卒業後じいちゃんの出身地でもあり、大学のある、この都市にそのまま住んでいました。ただ、就職を機に少しだけ広めのアパートには引っ越しました。

本当は地元に帰ろうとも思ったのですが、この土地に愛着があったかと言えば特段そうではなく、たまたま第一志望に就職できたことが大きな要因でした。

なんとなくですが、この街を離れてはいけないような気もしていましたが、それはただの思い過ごしだと考えるようにしていました。

ただ、これでも長男なので、ばあちゃんは悲しんでいましたが親父が「好きなようにしろ」と言ってくれたので「そう」させてもらうことにしました。

少しは仕事ぶりも板についてきた頃で、いつからかトモミにプレゼントするはずだったフットマッサージ機は、その仕事の疲れを癒やす為のマストアイテムとなっていました。

僕は、トモミと別れてからの6年間の間に2人の女性と交際しました。
モテないダサメンの僕にしては上出来です。

もちろん好きだから、付き合い始めたのですが・・・どちらの方とも1年程で実にあっさりと別れたもんでした。お互いにしっくりきてなかったことは否めません。

もしかすると、僕が恋愛に臆病になっていたところがあったのかもしれません。

「あの時」僕は、もう一生分の涙を使い果たすのではないかと思うほどに毎日狭いアパートで泣いて暮らしていました。

そういうこともあり、僕は割と多くの時間を1人で過ごしてきました。

24歳の時にはTVで観たオートバイの特集に影響され、普通自動二輪の免許を取って400ccのバイクを購入し、月に1回ぐらいのペースで土日の休みに行ける範囲での遠出。
パンクロックのライブを観にライブハウスにも足繁く通いました。
それから、子供の頃にじいちゃんによく連れて行ってもらっていた釣りも始めたり。
プロ・アマ問わず野球の試合を観に行ったり。
もちろん、性欲もあり余っているので風俗にも行っていました。

気ままな独身生活を謳歌していたと言えば聞こえは良いですが、それは「余白」を埋める作業だったのかも知れません。

そういう訳で、僕は知らず知らずのうちに「おひとり様」が上手になっていました。

トモミのことは、たまにふと、思い出して
「元気かな?」とか「今頃もしかすると、彼氏と・・・」なんて思うこともありましたが、その程度です。

それがガラっと変わったのが「あの」震災の後です。

とにかく心配で心配で仕方がありませんでした。
トモミの実家はあまちゃん地方の沿岸です。そして家の目の前は海でした。

最悪のケースを考えると胸が押しつぶされる思いになりました。

実際に、その町の役所へ電話してトモミのフルネームを伝えて尋ねたこともありましたが、当たり前ですが教えられないと言われました。

1年もすると、いよいよトモミの「無事」をどうしても確認したくなりました。

とうとう、その夏に僕は自分自身に

「もう土日の2日間の休みで帰って来られるような場所はここぐらいしかない」

という言い訳をしてまで、トモミの地元の方へバイクで出掛けることにしてみました。
宿泊するホテルだけを予約して早朝に家を出て昼前には、その町に到着しました。

その町の中心部は他の被災地と同じく、津波の爪痕がまだ生々しく残っています。その町のそれも、新聞やTVで何度も目にしていたのですが実際に目の当たりにすると動悸がしてきました。

それから、祈るような気持ちで微かな記憶を辿ってトモミの実家の方を目指しました。

何度も「ここじゃないな」と海沿いをバイクで走りながら確認していていきます。

幾つかの集落を過ぎてから、なんとなくですが見覚えのある景観の所に辿り着きました。

「海の見え方や山の見え方が似ている」

目印がそれしかありませんでした。
この辺りだったと思うような所には家がありません。

「・・・いや、そうじゃない。集落がない。」

そこに残されていたのは家々の基礎だけです。
いや、そんなことはもうここに着く前には分かっていました。

ここに来るまでに通り過ぎてきた海にほど近い集落のほとんどは、「そう」でした。

それでも僕は、

「記憶違いをしているだけで違う場所だ。そうに違いない」

そう言い聞かせることしかできません。でなければ、とても冷静にはいられそうにありませんでした。

でも本当はそうじゃないことは分かっていました。

結局、ホテルでも一睡もできずに僕はバイクを走らせ戻りました。
その事実を否定したい気持ちしかありません。

この頃の僕はわりと勤務中は仕事に集中できるタイプだと自認していましたが、そのことは仕事をしていても頭からは離れませんでした。

とりあえず、生きていることは確認したい。
次の週末、当時のアパートに行ってみることにしました。

アパートが見える位置に車を停めて、張りました。
駐車場にはトモミもナツコさんも乗りそうにない車が停まっています。ナツコさんの彼氏か、それともトモミの彼氏の車なのか・・・精神安定剤はそれでした。

しかしながら、全然違う若い家族が住んでいました。

いや、俺だって引越したんだし、トモミとナツコさんだってきっと。
そう思うほかにありません。

トモミは別れる直前、職場のことで大変悩んでいました。
職場を辞め、実家に帰っていることも想定されますが・・・。

もし、そうだとするとトモミは。

そう考えれば考えるほどに、その事はなかなか頭から離れません。もちろん仕事中もです。
普段からは、なかなか考えられない初歩的なミスもしてしまい、こっぴどく上司には叱られました。

そんな日々を過ごすなかで、ある日の夜「そうだ!」と思いつきました。
当時、流行の兆しが見えていたFacebookで検索してみることにしたのです。
僕もこの頃には周りにならって、ガラケーからiPhoneに換えFacebookにアカウントを持っていました。記事の投稿はしていませんでしたが、友人や職場の人に「いいね」するためだけのアカウントです。

そしてFacebookでトモミのフルネームを検索します。あまり多くはない名字なのですぐに見つかりました。
それから、誕生日や出身地、学校を見て本人だと確信を得ます。
「あった!」とホッとするの束の間でした。
トモミも投稿は全く、されていなくて現在の状況がまるで分かりません。

このアカウントはいつ作成されたものなのだろうか。
記事の投稿がされていないのは・・・。

良くない方をイメージしてしまいます。

2011年の3月以降にこのアカウントが作成されたことが知れれば、とりあえず「その」証明にはなり得ると思いました。

まずはFacebookがいつから、日本で提供され始めたのか。
2011年よりも遥か前でした。

もしかすると、どこかのレストランのHPでシェフの紹介ページがあるかもしれないと思ってフルネームで「ググって」みましたが、それらしいページはありません。

残された手段は、勤めていたレストランに確認することとFacebookで連絡を取ることの二択に絞られました。ただ、前者に関しては辞めている可能性が高いとは思っていました。

それでも、もし生きているのであれば、できるだけ「僕の存在」を明かさずにそれを確認したいというのが大きくありました。

今更、「元彼」が連絡してくることを快くは思わないだろう。もし、今付き合っている「今彼」がいればなおの事です。

思い切って、レストランに電話してみることにしました。
もし居れば、呼び出してもらっている間に電話を切ればいいだけのことです。

「はい、レストラン○○です」

「〇〇(偽名)と申しますが、(トモミのフルネーム)さん、お願いします」

「大変申し訳ありませんが、XX(トモミの名字)は既に退職しております」

トモミは退職済でした。
この時に、いつ退職しましたか?と聞ければ良かったのですが、それではあまりにも怪しすぎるかなと思ってしまいました。

残る手段はFacebookでの「直接確認」を残すばかりです。

さて、どうしたものか。
なかなか、答えは出せません。

数日間悩んで、恋愛ごとに明るそうな隣の席の後輩の女子に聞いてみました。

「あのさ〇〇さん、もし昔付き合っていた彼氏から突然連絡きたらどう思う?」

「えっ!?やすさんから、そういう話ふってくるの珍しいですね(笑)」

(うるせーよ!!早く簡潔に答えろ!)とは言わずに、
「いやね、友達がどうしても元カノに連絡を取らなくちゃいけない場面に今、遭遇しちゃってんのよ」

「あーそういうことですね。そうですね・・・その人次第じゃないですか?」

「ん?どういうこと?」

「その元カレとの思い出が良いものだったら連絡がきても嬉しいんじゃないですか?じゃなければ、ちょっと・・・。ダメ男もいっぱいいるじゃないですか?そういう人から連絡きたら身構えちゃいますね」

「ふーん、そういうもんなんだ。ありがと」

(さあ、俺はどっちだ・・・)

僕は言わずもがなだけれども、トモミはあの時のことをどう思っているんだろう。

ただ、それを天秤にかけてでもやっぱり、トモミが生きていることを確認することの方が重要に思えました。

これは、自分の勝手だけれども、それさえ確認さえできればいい。
その後にしつこく連絡もしない。
ただ、願うことはトモミが生きていてくれることでした。

そう腹が決まってから、Facebookで恐る恐る友達申請を出しました。
念の為、Facebookの通知がオンになっているか確認をしておきましたが、その日はその通知がきませんでした。

翌朝、再度見てみましたがきていません。

「嘘だろ・・・」

それを承認して通知がきてさえくれれば生きていることは証明されるんだから。

通知がきたのは、その日の夜でした。

「あぁ・・・良かった。本当に良かった」

それ以外の感情はなく安堵していました。
僕はそれだけで泣いてしまっていました。

再度、通知がきます。開いてみると、それはトモミからのメッセージでした。

「久しぶりだね。やす君、元気にしてる?」

それは当然ながら6年ぶりです。
カフェに呼び出されて以来のメッセージです。

「うん、元気だよ」

と打ってから一度消しました。作成し直しです。

「Facebookを触ってたら偶然見つけたから、申請してみた!元気だよ。そっちは?」

「良かった!私も元気だよ~。本当に懐かしいね」

「そうだね(笑)」

このような感じで、メッセージのやり取りをしました。
僕は当たり障りのないように、そのメッセージを懐かしみ楽しんでいました。

当初、「それだけ」を確認すればよかった筈が、いつの間にかもっとこのやり取りを続けたくなっていることに気づくのに、そう時間はかかりませんでした。

メッセージのやり取りが10ターンを超えた頃でしょうか、玉砕覚悟で

「良ければLINE IDかメールアドレス教えてくれない?」

「アドレスなら知ってるでしょ?それとも、もう忘れちゃった?」

そうだ!!
僕はトモミと一緒に携帯電話を買いに行った日に、ほぼ同じメールアドレスにしていました。そして、僕もそれを未だに使用している。特段変える必要もありませんでした。

一旦、自分のメールアドレスをコピーしてメール作成画面を開き、送信先にそれをペーストしてから誕生日のところをトモミの誕生日に打ち直して、本文に

「まだ、このアドレスだったんだ!」

とだけ打ち込んで送信しました。
間もなく、返信が返ってきます。

「やす君も変わってないんだ(笑)」

それからは、1日に2~3件のメールのやり取りが緩く続いていました。
僕は、ここまでくると聞きたいことがありましたが、それを聞いてしまうとこのやり取りが終わってしまうような気がしていました。

トモミもそれを聞くと、自分にも聞かれるリスクを恐れたのでしょうか、踏み入ったことは聞いてきませんでした。

ただ、お互いの仕事の話になった時に、それとなく聞いてみると初めに入ったレストランは1年程で辞め、今は農家レストランで勤務しているとのことは聞き出せました。

何でも農場に隣接したレストランだそうで、そこで取れた野菜をふんだんに使ったメニューを提供する店舗とのことでした。

ただ、それ以外のことはやっぱり聞けません。

「今日は少し寒かったね」とか「今あのTV観ている」とか「今日は何を食べたとか」
そういうメールを続けました。

さすがに、この緩いメールのやり取りを一週間以上も続けているとトモミに会いたくなってきますが、それを言うのは憚れます。
ですが、その思いは募るばかりです。

僕はある日、同じ課の妙齢のサトウさんに・・・失礼しました。
少し年上のお姉さんのサトウさんを誘うことにしました。
(ごめん、サトウさん・・・汗)

サトウさんは結構ズバズバと意見を言うので、多少周りから煙たがられているところがあるのですが、的確に的を得たことを言う人だと僕は思っていました。

僕はサトウさんと特別に親しい訳ではないですし、もちろん職場でプライベートな話をしたことがありませんでした。

「サトウさん、すいません今日って何か予定ありますか?」

「あら、珍しい。どうしたの?」

「今日一杯、どうですか?」

「私と○○(僕の名字)君が??どういう風の吹き回し?」

サトウさんの表情や話すスピードも相まって少しビビります。

「実は相談したいことがありまして、もし今日、都合悪ければ違う日でも・・・」

「今日大丈夫よ。それに、ちょっと興味があるし(笑)」

「はぁ(汗)じゃ、お願いします」

僕とサトウさんは仕事を終えてから個室の居酒屋に入りました。
ゆっくりと相談したかったのです。

生ビールでお互いの一日の労をねぎらう乾杯をしてから、サトウさんから切り出します。

「仕事のこと?」

「いや、そうではないんですけど・・・」

僕はここ1~2ヶ月のことを話しました。
そして、元彼女に会いたいと思っているけれど悩んでいて、そのことについて意見を聞きたいと。

サトウさんは

「〇〇君はさ、その子のこと好きってことでいいんだよね?」

「うーん・・・好きってことになるんですかね?」

「端的に言うね。わざわざ実家まで行ったんでしょ?職場にも電話したんでしょ?連絡取るのも相手の今の生活を気遣って慎重を期したんでしょ?」

「はい・・・」

「それって『好き』だよ」

「・・・・・」

「いい言葉教えてあげよっか?」

「はい、なんですか?」

「『もう一度愚かになれ』って知ってる?」

「なんですか、それ?」

「好きになるって、自分のエゴなんだよ最初は誰でも!」

「そう言われてみれば、そうですね」

「だからね、欲しいものは欲しいって言うの。じゃないと何にも始まらないでしょ?」

「はい」

「相手のこととか、周りのこととか考えないで、まずは愚かになって『欲しい!』って言うのよ!!」

正直この言葉は僕に刺さりました。
確かにサトウさんの言うことは、その通りです。
まずは「欲しい」を言ってみる。
さすがサトウさん。

ただ、僕はこの後サトウさんに3軒目まで付き合わされ大変な目に遭いました(笑)。
この頃は、ある程度飲めるようにはなっていましたが翌日は死んだように出勤しました。

体調が回復してから、僕はトモミをメールで誘ってみました。

「今度、久々に一緒にご飯でもどう?」

「あぁ~いいね!」

好感触です。あっさりと受ける感じから、もしかして・・・と淡い期待を持ちました。
ただ、それとこれとは別な感じもしましたが。

レストランはあくまでも農場がメインのようで、水曜日と日曜日が定休日とのことでした。
直近の水曜は予定があるとのことで、トモミが土曜の仕事が終わってから市内で待ち合わせをして会う約束をしました。


~続く~




※元投稿はこちら >>
19/11/03 10:56 (gYpWhUEo)
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