沖浦ちひろ のケース
沖浦ちひろ(34) バツ1 勤続年数3年(2年は3か月は契約社員、後に正社員へ形態変更)
会社でのポジション;A班の班長 所属派閥:なし 学歴;大卒 特徴:背が高く細身美人 お淑やか 趣味:マラソン(当時フルマラソンに挑戦中との事)
この沖浦のケースは前回の徳山のケースとは違い、正社員ならでわの悩みを抱えていた。もともと沖浦は空いた時間を使ってのパートアルバイトで工場勤務を志望してきたらしいが、有名大学を卒業しているという学歴から、面接の段階で、急遽契約社員での雇用となった経緯がある人だった。
そして最初の2年3か月は契約社員として他の連中と同じポジションで働いていたが、年度初めの人事によって正社員へと抜擢。それから沖浦の苦悩が始まったといっても過言ではない。
前回同様、俺に対しての最初の接近から話していこうと思うが、沖浦のケースで言えば接近も何も、同じ正社員であるから、社内ミーティングや、取引先での折衝という形で、俺とは何度か同じ席に座った事があるので、今更、接近という言葉は適切ではないかもしれない。
あくまでここでは、「他部署なのでそこまで顔を合わす訳ではないが、ポイントポイントで必ずどこかで関係があった間柄」と言ったほうがいいかもしれない。
そんな沖浦は、俺も遠くから彼女の評判を知っていたが、あまり評判は芳しくない様子だった。
他の従業員からすれば、「沖浦さんはこういう仕事(工場とか)向いてないんじゃない?」と口をそろえて言うのである。それもそのはず、沖浦はひときわ目立って、「知的でありお淑やかすぎる」のである。
言い換えれば、お上品。悪意を含めば、気取ってる。いつもそんな目でみられているのが沖浦であった。(沖浦がつけているフチなしのレンズのみの眼鏡の事を、沖浦メガネと呼ぶ風習を生み出していた)
ここまで書いて初めて「沖浦との接近」という表現が出来るかもしれない。
そんな沖浦とも、こうして書いている以上、しかるべき関係になってしまったのではあるが、それには切っ掛けというものが確かに存在する。
その切っ掛けというのが、「沖浦、サイフ盗まれる事件」というのが社内で起きたのでる。
事件の経緯はこうであった。朝、出勤してきた沖浦がA班の班長デスクに自分の荷物を置き、ロッカールームへと着替えに行った。そして(いつ盗まれたのか分からないが)昼休みになって食事に行こうと、外に出た時、カバンの中から財布が消えているのに気が付いた。
盗まれたのは出社してきた朝の8時40分~昼に外出する12:10分の間。それを可能としたのは、同じ時間に班長デスクの周辺に近づくことが可能であった、A班の全ての当日の出勤者である。
この事件で、沖浦は相当、心を痛めたらしい。
もともと、同じ契約社員から高学歴だか何だかしらないが、急に抜擢されて正社員になり、(つまりボーナスや各種手当なども支給されるようになり)今まで仲間だと思っていた従業員から妬まれているのはわかってはいたが、まさか、、、こんな幼稚というか、いやれっきとした犯罪行為までしてくるとは思いもしなかったらしい。
この沖浦、サイフぬすまれる事件はこの会社の中でも大きなニュースとなり、本人が被害届などは出さないというから刑事扱いにはならなかったものの、社内でのセキュリティに対する考え方が刷新する切っ掛けともなる事件であった。
というのも、以前にどこかで「戦時中は兵器などもつくっていたらしい」と書いたのを覚えているだろうか。今でも兵器の一部を作ったりしている部署もあることで、海外に技術漏洩などがすれば、国際問題レベルになる製品を扱っている部署もある。
たまたまA班がそうではなかっただけで、「簡単にサイフを盗める環境ってどうよ」と言う具合に会社がセキュリティ強化の為に動き始めたのである。
ここまでは、一般的な社員、従業員の中での認識だった。
だが、この事件の真実を知るものからすれば、こんな茶番劇、ある意味見た事もないという判断を下す他ないのである。
その真実とはなにか。
このサイフぬすまれた。という事そのものが、沖浦のでっち上げであり、当日、沖浦は財布すら持ってきていなかったのである。
なぜ、沖浦はそんな理解不能な行動を起こしたのか。
それは沖浦の「泥棒がいる環境で安心して仕事が出来ない」という今の状況をアピールする為の、部外者までも巻き込んだ、沖浦の報復劇だったのである。
既に話したが、沖浦はA班の全ての従業員から疎まれていた。沖浦のステータスで所属派閥:なし と書いたのはこういった理由があるからである。
そんな沖浦は、一見、大人しそうな顔をしていながらも正社員になってからは日に日にストレスを抱え始め、とうとう「同僚から財布を盗まれた被害者」を名乗り出る事により、職場環境の改善を狙って事件をでっち上げたという真相であったのだ。
そんな真相を、なぜ他部署である俺が知る事が出来たのか。
それは、明らかなる沖浦の誤算。だった。
それは沖浦がプライベートの時の話。繁華街で買い物をしていたそうだ。そこにB班の従業員がたまたま、買い物している沖浦を見かけたそうだった。もちろん、その従業員と沖浦は顔は知っていても接点はない。むしろ、「財布を盗まれた沖浦さん」という印象だけが焼き付いているといっても過言ではない。
その従業員が俺に言ってきたのである。
従業員「あのさ、沖浦っていう人いるでしょ」
俺「ああ、、うん」
従業員「あの人ってサイフとられた人だよね」
俺「以前、そういう事もあったな」
従業員「あの人って、前々から青いサイフ使ってた?」
俺「そんな事までしらねーよww」
とはいったものの、俺はピンときていた。そう。沖浦は青い長財布を使っていたのだった。なぜ、俺がそんな事を知っていたかというと、以前に何度か外回りをし、その帰りに弁当やによって帰社した事が数度あり、その時に沖浦が、ある特徴的なキーホルダーを付けていたので印象に残っていたのだった。
その特徴的なキーホルダーとは、中国でいう「魔除け唐辛子」のミニチュアであった。こんなものがなぜ印象深いかというと、ミニチュアではないが、俺の部屋にも魔除け唐辛子がぶら下がっているのである。そんな事があったので俺は覚えていたんだ。
俺(そう考えたらおかしいな。サイフは盗まれたものの、見つかったとは聞いてない。むしろ、あれだけ社内を騒がしたのだから、見つかったのなら見つかったと報告する義務があるんじゃないだろうか。いやまて、もしかしたら別のサイフが盗まれたのかもしれないし、ま、、いいやどうでも)
あまり関心は無かった。
だがそのまた数日後、別の財布をもって会社の中の社員食堂で精算する沖浦を見かけたのである。今度は白の財布。
(財布って普通、コロコロ変えるもんか・・・なんか怪しいな)
この時になって初めて、沖浦の財布事件について俺が関心を持ち始めた時だった。
確かに、サイフ事件の前と後では、沖浦の環境は変わった。A班の班長という地位を持ったまま、実際はもう現場には出ず、ほとんどデスクワークをやっている。もし沖浦の狙いが、職場環境を変えるために、窃盗事件をでっち上げたのだったら、これはかなり沖浦は大胆な策略を駆使した事になる。
①俺は沖浦が青いサイフを使っていたのを知っている。
②報告書には、青いサイフが無くなった。と書いてあった。
③だが沖浦は、その無くなったはずの青いサイフをプライベートで使っていた。
④しかし会社では白いサイフを使っている。
怪しすぎるのだ。。
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