目的はあくまでもホテルに連れ込んで中野咲を抱く事。キスする事じゃない。下手にキスして嫌われたら口説けるもんも口説けなくなる。僕は中野咲の意見に賛成した。すると中野咲もここぞとばかりに「そうですよね」と合わせてきた。中野咲と意見が合うなんて考えられない。いや当時は意見する事さえ許されなかったんだ。しかし男女の欲望は空気の読めない行動を許さない。先輩達は「王様の命令は絶対」とより盛り上がり始めた。僕と中野咲はキスをするしかなくなった。改めて中野咲の肩に手を置き顔を近づける。僕の顔と中野咲の顔は15センチほどの距離となった。整った顔立ち、なんて美人なんだ、キスしたい、純粋にそう思った。しかし顔と顔が5センチほどの距離になった時、僕は鳥肌が立つほどの恐怖心を感じた。この距離…この距離はアノ距離だ。そう高校時代、僕に八つ当たりをした中野咲が僕の胸倉を掴んでヤンキーのように顔を近づけ「キモいんだよ童貞」と言ってから脛を蹴る。アノ距離だった。過去を思い出し怯える僕。中野咲もキスがよほど嫌なのかそれとも演技なのか震えている。そんな僕らのキスはチュッという表現がピッタリの一瞬のフレンチキスだった。中野咲の唇は…柔らかかった。
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