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2013/12/17 17:20:19 (Y7RW39.3)
僕の前に無遠慮に腰を下ろしたのは、高木だけではなかった。
佐々木は、黙ったまま僕の前に座ると、黙って、じっと、僕を見つめた。
コイツは、僕らが大学に入ってから知り合ったヤツで、身体は小さいが、合気道をやって
いる猛者だ。

キャラが濃いので、僕とは別の意味で浮いていて、何かの飲み会のとき、部屋の隅っこで、
うじうじと一人、手持無沙汰にしている僕のところにやって来たのが、きっかけだった。

「なんか、クラブ、やってるん?」
「いや、何も・・・、佐々木は?」
「合気道。むかし、ちょっとやっててん」

顔は悪くはないが、たまに道着の移り香があるのが玉に疵だ。

あ・・・、僕を非難しているこの眼差しは、明らかに事情を知っている。

『高木のヤツ、エビフライ食ったくせに、おしゃべりな・・・』

僕は、自分のことを棚に上げて、ひとりごちた。
「高木だろ?」
佐々木は、頭を振った。
「え? そしたら、由香?」
佐々木は、更にゆっくりと首を左右に振ると、
「サイテーやなぁ」
と、目だけでなく、言葉でも非難した。

でも、僕は、そんなことよりも、コイツがどこから情報を仕入れたのかが、気になった。

「じゃ、誰から聞いたの?」

佐々木は、聞こえよがしに大きなため息をついてみせてから言った。

「電話してきはってん」
「え?」
「倉田さん」

『いま、倉田さんって、言った? いや、いや、いや、それはないでしょう・・・』

「佐々木に?」
「他に、誰がおるん?」
「いや・・・、でも・・・」
「泣いてはったで、あの倉田さんが」

『倉田さん、それはないよ・・・、なんで、こんなヤツに・・・』

「倉田さんな、『田中くんとは、予防線、張らずにいられるから』って、ゆうてはってん
で」
「んな、無防備なとこ、バサーッていかれたら、そら、傷つくわぁ。倉田さんの心、血ま
みれやん」
「ちょっとは、反省してるん?」

『バサーッ』と、という擬態語と何が『いかれる』のか解りにくいと思ったが、感覚的に
聞き流した。
けど、そんなことよりも、僕には、倉田さんがこういうことを佐々木に喋っていることの
方が、驚きだった。


確か、2年の頃、4人でUSJに行って、その時、高木と佐々木が気を遣って、僕と倉田さん
を二人にしてくれたがあったけど、ほかにも、接点があったってこと?

「なに、不思議そうな顔してんのん?」
「いや、佐々木、倉田さんと、そんなに親しかったっけ?」
「んー、たまにね。こっちもいろいろ相談にのってもろてるし」
「!?」
「ほら、USJ、行った時も、高木と二人にしてくらはったやん」

僕が、一層、不思議そうな顔をしてると、
「え? 倉田さんから、聞いてないん? うそやん?」
そう言うと、佐々木の顔は、みるみる真っ赤になっていった。

「えっ!? 佐々木・・・、お前・・・」
「え、なんで? ほんまに知らんかったん?」

そこにいる佐々木は、いつもの無骨な猛者の顔ではなくて、ひとりの乙女の表情を浮かべ
ていた。

「なぁ、佐々木が、僕らんとこ、ちょくちょく来るのって、そういうこと?」
「・・・そうや・・・、悪い?」
「いや、悪くはないけど・・・、佐々木、知ってるよね? あいつの・・・だらしないと
こ」

僕は、精一杯、オブラートに包んだ表現を選んで言った。
「・・・うん、でも、しょうがないやん」
「・・・で、高木とは、そういうことなの?」
佐々木は、力なく、肩を落とす。
「ぜんっぜん、多分、うち、女と思われてへん」

『そうか・・・、そうだったのか・・・』


だいぶ後になって、倉田さんに、このことを訊いたら、ひと言、言われた。
「この、鈍感」

『知らなかったの、僕だけ?』
自分で、自分の鈍感さにあきれた。

「佐々木さん、あれはあれで、結構、一途なところあるのよ」
「え゛―っ、そんなとこ、見たことない・・・」
「そう? 割とわかりやすかったけど、何かあると思わなかった?」

そりゃ、顔立ちはきれい(僕以上に男前)だけど、どう逆さに振ったって女らしさのかけ
らも出てこない、アイツが?

「おもわ・・・なかった・・・。だって、アイツ、腹筋割れてるし・・・」
「ちょっとぉ、田中くん、それ、いつ見たの?」

『うわっ、やぶ蛇だった・・・』

高木と佐々木との三人で、飲んだ時、酔っぱらった佐々木が、自慢して、見せたのだ。
しどろもどろになっていると、
「佐々木さんに、注意しとくね。高木くんは、いいけど、田中くんは、ダメだって」

『いや、大丈夫。僕、佐々木を見ておっきくなったこと、ないですから』

思ったけど、口には出さなかった。余計なことを言うと、事態は更に悪化する。


けど、人の縁というのは、わからない。
高木が、卒業間際に伴侶として選んだのは・・・、佐々木だった。
高木は、ちゃんとおっきくなったらしい。


結婚式のとき、手持ち無沙汰にしている新郎に訊いてみた。

「なぁ、高木ぃ」
「なんや」

『お前が、関西弁のマネするな!』と思ったが、本当に聞きたいことを口にした。

「いろいろあったお前が、どうして、佐々木に落ち着いたの?」
「うん・・・、そりゃぁ、お前・・・、あいつのアレったら、すごいの、すごくないのっ
て・・・」

『わかった・・・、もう、いい・・・、谷口さんより、すごいんだね・・・』
 
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