今から8年くらい前の話。
当時24歳だった俺は、いつも仕事と家との往復で、これといって趣味がなかったもので、たまたまその当時に購入した(当時としては)ハイスペックPCを使って何か新しい趣味でもしようと、普段あまりやらないFPS(ガンシューティングゲーム)をダウンロードしたことがある。
男であるがゆえに、もともと戦争や兵器というのが好きだったし、また、ゲームの中での20XX年、近未来の世界をイメージした世界観の中、宇宙から飛来した疫病が蔓延し、ゾンビウイルスに人類が汚染されていくという設定は当時の俺にとっては最高のセッティングだった事もあり、軽い気持ちで始めたゲームに見事に俺はにハマってしまったのだった。
そのゲームの中ではサービス開始の頃からやっていたので、ゲームがオープンしてから1年目になれば、もうゲームの事はなんでもしっている古参プレイヤーになっていた。また、同じサーバーの事であれば、どのクランがどう、あのクランがこう、というゲーム内の事情も知り尽くしていたと思う。
俺にとって、そのゲームが生活の一部になっていた頃、ふとしたきっかけで、サブマスターである俺が所属するクランと敵対するクラン「171部隊」のクランマスター、つまり分かりやすく言えばギルドマスターが、女である事を知ったのだった。
たしかにFPSというゲームの性質上、女がこのゲームをやっている事は確かに珍しいといえばそうだと思う。しかし、日本全国にいる数多くのプレイヤーの中でFPSだから女が一人もいないのか?といえばそうではない。少なくとも俺はゲームの中で暴れまくっている「171部隊」のギルドマスターが女であることに対し、特段、これといった興味を示さなかった。
だが、そんな中、俺は2年目に突入した頃、俺が所属していたクランのギルドマスターが急にゲームにinしなくなるという事となり、数週間が経った後、ゲームシステムで自動的にサブマスターである俺が、ギルドマスターに繰り上げで就任されるという事態が起きたのだった。
すると俺の代になってから、俺と初代ギルドマスターのやり方は違ったのか、もともと大所帯だった俺のクランが分裂するという騒ぎになった。それについては詳しくは話すつもりもないし、これからの話をする上ではどうでもいい事なのでここでは割愛するが、最終的には俺がゲームの中で、「こんな状態だったら、俺がやめるわ」という事で、俺はギルドマスターの職を蹴って、ソロプレイヤーになったのである。
しかし、ソロプレイヤーといっても、ゲーム開始からプレイしていたし、それなりに課金をしていた俺は、ゲーム内イベントや、ボス戦の時の火力要員として、いろんなクランからお呼びがかかる様になり、ある意味、ゲームの中での第二の人生という立場を俺は楽しんでいた。
すると、「171部隊」のギルドマスターである、「ジャンヌ」さんより、「ちょっといいかしら?」ささやきチャットが来て、それから俺は敵対していたクラン「171部隊」のギルドマスター、「ジャンヌ」さんと個人的な交流が増えていくのであった。
最初は一緒に、人手不足の時とかに呼ばれて傭兵として参加する程度のものだったが、この171部隊と一緒にゲームをするようになって、俺はこの171部隊や、ジャンヌさんという人物に、「オンラインゲームには似つかないある意味異様な有様」をかんじていくのだった。
なにが異様なのかというと、この171部隊のメンバーが、あまりにもギルドマスターであるジャンヌさんに対し、(ここは現実の世界か非現実か?)と疑いたくなるような忠誠心を見せるのである。
どういう事かといえば、171部隊のギルドメンバーは、このジャンヌさんがログインしてから、バタバタとログインをし始め、それからジャンヌさんの指示をまち、ジャンヌさんが「今日はあいつ(ボス)を倒しに行くわよ」といえば、「はい!」と、まるで軍隊なみに、(所詮ゲームなのに)統率が取れているのである。
そして、そのジャンヌさん自体も、そうとう歴史とかに明るい人なのか、ゲームの中での戦略を、孫氏の兵法曰く、孫濱兵法曰く、とか、甲陽軍鑑曰くなど、あらゆる兵法書や軍記の名言がポンポン出てきて、(所詮ゲームなのに)完全な陣形や人員配置で、確実にボスを攻略していこうとするのであった。
俺はこのジャンヌさんが、最初はあまりに歴史とか、兵法とか、軍事的な事に明るいので、俺は正直、(こいつ、女とかいってるけど、中身はせいぜい中小企業の歴史好きのオッサンとかなんだろうな。統率力やカリスマがあるのは認めるが)と俺は思い込んでいた。
なぜなら、誰もが、ジャンヌさんとスカイプしながらゲームしたわけではない。と言っていたし、つまり生の声を聴いたことのある奴もいなかったし、ログインする時間も平日の20時~23時迄。とまるでサラリーマンの時間帯にしかログインしなかったという事があげられる。
ただ、人の使い方と接し方は神がかったものがあり、そんなネット用語では、「神対応」っていうのかな、そういう素振りを見せるもので、ギルドメンバーや、そもそも同じサーバーでゲームしている連中からは、一目も二目もおかれた存在であったのは間違いがない。
俺はそんな、「今までギルドメンバーでさえも、1回も音声チャット等したことがない」と言うジャンヌさんと、(不可抗力に。狙ったわけではない)個人的にチャットをする事になり、最終的に俺「うーん、なんていうのかな、文章で表すの難しいわwww」等という難解な会話をしていた時に、意外と「じゃ、スカイプでもしながら話す?」と言われた事が、これからの怒涛の展開になっていく最初のスタートだった。
続