いきなり現れたわけのわからん男に彼女を寝取られた。
結婚の約束までしていたのに本当に突然で、青天の霹靂とはまさにこのことだ。
同じ職場に勤めていた彼女は、少し野暮ったいところがあったが、とても真面目で、気立ても優しい女性だった。
何度かデートを重ねて、初めて体の関係を持ったとき、彼女はまだ男を知らなくて俺が最初の男だった。
決して不美人ではなかったのに25歳にもなって男を知らなかったことに驚きもしたが、それは彼女の性格からある程度予測はできたし、初めての男になれて嬉しかったこともあり、この女性だったら一緒になってもいいと思えてベッドの中で結婚の約束をして、彼女も素直に頷いてくれた。
それが2ヶ月前のことだ。
ところが、ここ2週間ほど職場で顔を合わせても目を逸らすことが多くなり、意図的に俺を避けるようになった。メールを送っても彼女から返ってこないことが増えて、夜に電話をかけてもなかなか繋がらない。
わけがわからなくて、ついこの間、休み時間に彼女を連れ出して問い詰めたら、好きな男ができたとあっさり白状した。
驚いて声も出なかった。
誰なのか訊ねると、高校の後輩だといい、ひと月ほど前に久しぶりに会ってから、あっという間に体を重ねる関係になっていったらしい。
怒ったのは当然で、そいつに会わせろと彼女に詰め寄り、3人で話し合う場を設けたのが三日前だ。
仕事が終わってから彼女のアパートに向かったわけだが、そいつは先に来ていて、優雅に酒なんか飲んでやがった。
確かに顔はよくて背も高く、がっしりとした体つきは、30を前にして腹の出始めた俺なんかとは見てくれでもだいぶ違っていた。
ガキじゃないから冷静に話し合うつもりだったが、結局最後は修羅場になった。
俺が罵るのを奴は黙って聞いていて、彼女は隣で申し訳なさそうに俯いているだけだった。
一番腹が立ったのは、終始奴が俺を見下したように落ち着いた態度を変えなかったことだ。勝ち誇っていたと言っていい。
だが、その理由もすぐにわかった。
罵るだけ罵った俺が疲れて次の言葉を見つけていると、奴が、もう話し合っても仕方ないでしょう、とあきれたように口を開いた。
いい加減ウンザリといった顔をしていて、彼女はもう、あなたのものじゃないんですよ、と言った奴は、おもむろに隣にいた彼女の肩を抱き寄せると、胸の中に倒れ込んだ彼女の胸を開いていった。
それを見た瞬間に息を飲んだし、すべても理解した。
俺と付き合っていた頃には、まだきれいなピンク色をしていた乳首に丸いリング状のピアスが付けられていた。
ピアスは完全に乳首を貫通していて、それが簡単に取り外せるものでないことは、ひと目見ただけですぐにわかった。胸の上下には、赤く擦れた縄の痕もまだはっきりと残っていて、彼女が奴とどんなセックスをしているのか簡単に俺に想像させた。
彼女は奴の腕の中で小さくもがいていたが、どこかあきらめているようでもあり、見せつけることで俺をあきらめさせようとしているようにも思えた。
下も見ますか?と奴に聞かれたような気もするが、声を失い身体中から力が抜けた俺は、なんと答えたのかよく覚えてない。
気が付けば、俺は泣きながら自分の家に向かって夜の街を歩いていた。
本当に真面目そうで、純情可憐といった彼女だったのに、まさかあんなセックスを許すような女だとは思っていなかった。
だが、それが俺の見当違いであるのが一昨日わかった。
彼女から送られてきたメールに、元々彼女にはそういったセックスに強い興味があったと書いてあったからだ。
俺に初めてを許したことを後悔しているとも書いてあり、それは関係を持たなければ、こんな修羅場で終えることもなかったのにと悔いているようだった。
自分のしたことは罪深いけれど、やっと理想の男に巡り会えたとも書いてあった。つまり、俺は理想の男ではなかったわけだ。
あの夜以来、彼女とは会っていない。顔を合わせづらいのか、仕事も辞めてしまい、携帯も昨日から繋がらなくなった。
怒っていないと書いたメールは行き先不明で返ってきたが、彼女を捜すことはないだろう。
あまりにも突拍子もない終わり方で、なぜか不思議とまだ現実感がない。
現実感が薄いせいか、彼女を恨む気持ちにもなれない。
しかし、本当に女は恐ろしい。
まだまだ勉強の足りない俺だと自分に言い聞かせながら、これを書いている。