俺は小さな居酒屋の店長を任されているんだけど、去年メチャメチャ可愛い子がバイトで入ってきた。大学二年生名前は仮名でサチとしておきます。
実際サチ目当てのお客さんが増え、あまり仕事は出来なかったがバイト代を倍出しても良いとオーナーも言っていた。アイドル的な彼女がシフトに入る時は明らかに売上が違っていたからだ。
ある日の店始めに、サチから店を辞めたいという話がありビックリして話を聞いた。
最初は、忙しくなったからとか、他にもいろいろやってみたいとか言っていたが、なんとなくスッキリしなかった。
そういう理由で辞めていく人間はもっと明るい顔をしている。
なんとなく違和感を感じて、オーナーも凄くサチのことを買っているんだからと話すと、いきなり泣き出した。
「店長はどうなんですか!私の事嫌いですよね!」
「エッ!イヤイヤ何を言ってるのそんなことあるわけないでしょ」
「だって私にだけ冷たい!」
と泣かれてしまった。
俺はというと実はサチの目をまともに見ることも出来ない、自他共に認める冴えない男。
年齢がひとまわり以上も離れているサチにときめき、実際おかしな妄想をする人間。
なんかすべて見透かされている感じがして、仕事以外はまともに話しかけられないというのが実際だった。
店終わりにバイトを誘って飲みに行くんだけど、小小小市民の俺はサチに断られるのが怖く、確かに一度も誘ったことがなかった。
でもそんな俺の想いを告白する事も出来ず、どうしようかとうろたえていると、長く働いてくれているバイトのリーダー的存在のユキが間に入ってくれた。
「店長ちょっと向こう行ってて」
「えっ、うん」
二人はどこかに消えていき、俺は帰ってきたらどう説得しようかと考えていた。
小一時間ほどすると二人が帰ってきた。
チラッとサチを見ると泣いていたのが嘘のように、いつもの明るく可愛い彼女に戻っていた。
ユキが一人で厨房に入ってくると、俺の横に立った。
「言っちゃったからね」
「な、何を?」
「店長がサチの事を好きって」
「えーーーっ!ちょっと!まずいよ!」
確かにユキには酔った勢いで話していた。
そのあとはユキからキツイ説教をされた。
「いい歳して私にはぶっちゃけといて、なんで本人にちゃんと告白しない!」
「気持ちを隠したいなら他のバイトと差別するな!」
などなど。
ごもっともな長い説教を受けた。
「いずれにしても、もう言っちゃったからね、あとは自分で話しなよ」
「…うん(汗)」
ドキドキだった。
サチに店が終わったら話があると伝え、それで辞めるのを判断してもらうように頼んだ。
店が終わり、片づけが終わった店内のテーブルでサチと初めて二人で向き合った。
初めてサチと二人で向かい合った俺は、なんて可愛いんだろうと訳の分からない事を思っていた。
気を取り直して俺はまず謝り、冷たくしたんじゃなく、サチと話す事に緊張していたと話した。
「なんで緊張するんですか?」
(ユキから聞いただろうに…)
と思ったが、俺の想いを伝えた。
サチは本当に驚いているようだった。
(えっ、あれ?)
「ユキとどんな話ししてたの?」
「普通に説得されてただけですけど…あとは普通に話してただけです」
(言ってねえのかよ!)
沈黙があり、俺はドキドキしていた。
「すごくすごく嬉しいです。今は店長の想いに応えられないけど、お店は辞めませんから」
「分かった。でも良かったよ(笑)」
俺はとりあえずホッとして、またサチと一緒に働ける事を心から喜んだ。
サチも笑っていたが、なんとなく様子がおかしかった。
「店長(笑)。私『今は』って言ったんですけど」
「えっ、うん。えっ?」
「私付き合ってる人が居るんですよ」
「あ、そうなんだ!そりゃそうだよね(笑)」
「今別れ話になってるけど…」
「あ、そうなんだ…(汗)」
「別れたら私からも今までの想いを店長に告白しますから、あと少し待っていてもらえますか?」
「ん?エーーーーーッ!」
俺は呆然とサチを見ていた。サチが大笑いしているのに気づいて我に戻った。
「どういうこと?(汗)」
「今度ちゃんと話します」
「う、うん」
そして先日
「私も店長の事が大好きです。彼女にして下さい」
って言われました!
もう信じられない。奇跡ってあるんだと思いました。
その後二人で飲みに行き、彼女を大事にしようと自分に誓った夜になりました。
一応オーナーにも付き合う事になったと報告すると、店では店長とバイトの関係を崩さない事を口酸っぱく言われました。
本当はサチには辞めてもらわないといけなかったらしいんですが、稼ぎ頭の彼女は辞めさせられないとの事。
多分俺に辞めろと言いたかったのかも(笑)。
その後いきなりユキが辞めてしまい、周りから俺のせいだと聞かされた時はまた凹みました。
「私がユキさんの分も頑張る!」
とサチに言われてまた凹む俺。
そろそろ冴えない男を返上したいですね。