ぽた・・・ぽた・・・
熱く火照る汗が顔面から落ちて弾ける。弾ける先は白い肌。
おぞましいほどに嬌声をあげる白い顔。
「あ、ああ・・・・・・」
母音を並べるだけの言葉。いや、言葉というよりは鳴声。女のその顔に浮かぶ色
も赤い。
火照っている。
百年に一度だけ咲くという黄色い竜舌蘭の香りが闇の密室で充満している。それ
はもはや固形物であるかのようにねっとりと二人の大気にまとわりついている。よ
くぞ個人でこれを有していると感嘆するほどの貴重な花を・・・
テキーラの材料ともなるこの花はその匂いだけで人を酩酊させるのだろうか。
ふと下らぬことを思考の隅に浮かべながら護邦は腰を動かす。
汗まみれの顔・・・美形とはいいがたいが強い自我を飼いならしている雰囲気を
有するその顔十分魅力的であった。
その顔に獣のような本能的な笑みを浮かべる。
「どうだ・・・どうなんだ?」
その声は牡。まだ少年期であろう年齢と不釣合いなほどに牡であった。
身体は、逞しい。黒い肌・・・それは決して不自然に焼いた安っぽさを有さな
い・・・その下で蛇のようにうねる筋肉。それを支える骨格。
身長は少なくとも180はあるだろう。
その大きな男が少女を犯しているのだ。
犯しながら獣の笑みを浮かべているのだ。
「あっ! あっ! い、いいですぅ!!! すごく、すごく気持ちいいで
すぅ!!!」
その声は明確に聞き取れるものではなかった。
快楽の波に弄ばれて人の聴覚の限界を超えた音色であった。
幼い顔、その眉間に皺を寄せ快楽の波におぼれている。
しかし、その意を汲み取ることは護邦にとってあまりにも容易。
腸液にまみれたそれを出し入れし、仰向けになっても未だ谷間を失わぬ泉水の豊
かな胸に手を伸ばした。その白く豊かに波打つ胸は灰色の竜舌蘭の紐にてより強調
されるように縛られている。
後に回された手首にも同じ色。
上半身を束縛されながら肛門を犯されているのだ。
正常位の形で。
「恥ずかしくないのかよ・・・こんな格好でけつの穴に突っ込まれてよ・・・気持
ちいいだと?」
排泄器官である肛門。そこに男が生殖器を受け入れ、快楽を引き出され、悶え
る。
科学が発達し、極わずかな場所にしか居場所を失った神がこれを知ったのであれ
ばかつてのソドムとゴモラのように塩の柱と変えられてしまうであろう。
それほどまでにヒトという禁断の果実を食したものの末裔のみが行う罪深き、
セックス。
だがそれ故に、本能に飼いならされぬ人間の知恵としての形がある。
そう護邦は考える。
人間であるから生殖から切り離されたただ快楽だけの、おぞましい形でのアナル
セックスが行なえるのだ。
「あっ、あぁっ!!! わた、わたしぃ!!! 恥ずかしいですぅ! 恥ずかしく
て、でも、そ、それが気持ちいいんですぅう!!!」
肉体を束縛されているからか、その声は心の開放をうたっていた。
泉水は心の底からそう思っている。恥辱をして快楽が増すと確信している。
尻の穴。
それは性器以上に他者にさらけ出すことのない場所だ。
それをさらけ出すどころかもうひとつの性器、男を受け入れる場所として供じ、
あまつさえ快楽を得ている。
背徳が、脊髄も脳蓋すらも支配し、負のベクトルを有する感情の波となって肉体
を貫く熱さを何倍にも引き上げている。
それは貫いている護邦とて同じことであった。
「んふぅ! んんっ、うぁうぅん!!!」
たまらなかった。
護邦は衝動的に泉水の唇を奪った。
瞬間的に酸素に飢えながらも泉水が必死の想いでそれに応える。
肉体の疲労か、重くなった舌を必死に動かし自分の感情を伝えようとする。
それは愛情というよりはもっと本能に近い場所から湧き出すどろどろとした感
情、独占欲だった。
護邦は感情を否定しない。本能を否定しない。
ただそれに飼いならされることを拒むだけだ。
それらは飼いならすものであって飼いならされるものではない。
「ふ、ふぅう!!! ん、んんっ!!!」
唇の周囲に涎が撒き散らされる。
生暖かい鼻息が護邦の顔面で弾ける。
その度に肛門が何重にも巻いた輪ゴムのように護邦のペニスを締め付ける。
しかもそれは肛門周辺だけの単純なものではなく直腸の粘膜のうねりすら含まれ
るものだった。
まぶすように溢れてくる腸液とあいまってその一瞬でも果ててもおかしくないほ
どの華楽を護邦に与えた。
「ぷはぁ! あっ、ぜっ、はっ、ぜっ・・・・・・」
ようやく唇を離す。
一分近い時間の間、失った酸素を取り戻そうとするかのように粗い吐息が泉水を
突き動かす。
眼は苦しさとそれ以上の快楽に歪み、濡れていた。
痙攣したようにひくひくと動くのど元はその普段の白さゆえだろう、爆発するほ
ど脈打つ心臓の力で血の桜色に染まっている。
「お、お願いです・・・も、もう・・・お願いします・・・・・・」
すっかり口が弛緩している。もはやまともに閉じることもかなわぬ程だ。
唇の端から涎が流れるに任せている。
そして眦にはじんわりと涙が滲んでいた。
「何がだ・・・何をしてもらいたいんだ?」
唇の端を耳まで吊り上げながら護邦が言う。
わかっている。わかってるがゆえに腸液が飛び散る程の激しい抽送をやめている
のだ。
すっかり感覚が蕩けている肛門、その心地よいしまりを腰骨の下で含みながら快
楽の残滓を、そう、まだ残滓と呼んではいけないはずのそれを、楽しんでいるの
だ。
泉水の切なげな表情とともに。
「あ、ああ・・・お願いしますぅ・・・・・・」
語尾が延びるのは甘えている証拠だ。
大粒の瞳が涙に瞬くのは求めている証拠だ。
直腸がひくつくのは肉体が快楽を求めている証拠だ。
男は女を支配することに喜びを感じる。その喜びの最もたる瞬間。それはまさに
この瞬間だった。
「泉水の・・・・・・泉水のいやらしくてあさましいお尻の穴にお仕置きしてくだ
さい・・・護邦さんの大きなペニスで私をいかせて下さい! ああ、い
やぁ!!!」
手首を束縛するそれがなければ顔を覆っていただろう。
涙を撒き散らしながら自分の言葉の恥辱を後悔するよう顔を振って護邦からの視
線から逃れた。
先ほどの言葉と矛盾する。矛盾するがゆえに人なのかもしれない。
しかし、それ以上に護邦の興味は泉水の顔にあった。
「それが人にものを頼む時の態度か? よく俺に顔を見せるんだ」
その気になれば無理矢理にでも見ることができるであろうに。
意地が悪いのではない。自身の、支配の力を確信しているのだ。
その支配の中身が快楽であろうと背徳であろうと、或いは愛情であろうとそれは
かまわない。
重要なのは支配しているということ。
牡が牝を従えているというそのことだ。
「あ・・・は、はい・・・こ、これでいいですか・・・」
おずおずと怯えながら。
それでも背徳の快楽に期待を膨らませながら。
絶対に近い信頼を持った視線で。
「そうだ・・・それじゃ、約束だからな・・・」
笑みを強く浮かべたまま。
びたん、と尻たぶと腰の肉とがぶつかる音。ゆっくりと、何秒かかけて。それが
二分の一、二分の一と間隔を縮めながら。
「ひ、ひゅあっ! あ、あひぃ!!!」
泉水の眼が見開かれた。
護邦の恥毛のあたりに熱い飛沫があたった。細められた膣穴から反射的にそれ
が。
「潮吹きはじめやがったかよ、泉水、てめぇ・・・」
濃すぎるまでの牡の声。それを耳元で重ねられて、泉水の快楽が加速した。
「ひ、は、ゆ、許してくださいぃ! 出ちゃうんです、出ちゃうんですぅ!!!」
言葉続けるその瞬間ですら飛沫が熱く護邦の腹をうつ。
それが竜舌蘭の強い匂いに混じって脳が溶けるほどの麝香となる。
「いけよ、いっちまえよ! ほらぁ!」
支配していたものが、支配された。
突き動かされるそれに従い、獣の動きで護邦は自身と、それ以上に泉水に尽くす
ために全霊を捧げた。
「は、はひぃ!!!・・・・・・!!いっ・・・いっちゃぅ! いくっ! わた、
わたしぃ!!! いっちゃいますぅ!!!」
ぶるぶると泉水の身体が震えた。白い肢体が震えた。
その肩口に歯を立てるように口付けながら、護邦が、叫んだ。
「俺も、いくぜ? ああ、おまえの腹の中にいっぱいぶちまけてや・・・いぃ
い!!!」
言葉は途中で噛み切られた。
すべてを砕くほどにかみ締められた奥歯、そこでかみ殺されたものが脊髄を光速
で落ち、腰骨の下の螺旋の蛇の枷を外した。
どくん! どぷっ、どぴゅうぅぅ!!! どくん、どくんっ!!!
「ひゃあああっ!!! 出てる、おなかの中、いっぱい出てますぅ!!! ああ、
熱いの、熱い精液がお尻の中、いっぱい、いっぱいぃいぃ!!!」
泉水の理性は弾けとんでいた。
ぷしゃぁああぁぁ・・・
同時に膣口から淫液が噴出し、二人の腹をうつ。
瞬間、泉水は直腸の奥で護邦の射精を感じながら強烈な上昇気流で涅槃にすら達
していた。
それは決して聖なるものではなく、むしろ頭の中が肛門、直腸から熱く涌き出る
牝の喜びで埋め尽くされた、俗垢ですらもないほどに堕落した涅槃であった。
「はぁ・・・は、はぁ・・・」
そんな忘我の局地、自身の身体のコントロールすら放棄し、腹が膨れるかと思え
るほどの精液を直腸で飲み込んでいる泉水・・・
乱れた匂いの中、竜舌蘭とそれらとが交じり合いながら空気が結晶化し、沈殿す
る。
焼けつくほど熱く、固形化しそうなほど粘着質な汗を感じる。
水に触れることで何十分の一にも縮む・・・その性質を有しているはずの竜舌
蘭。しかし不思議なことに二人汗を重ねることで泉水の束縛は解けていた。緩んだ
手首の束縛を外し、両手で未だ肛門に受け入れている男の首を抱える。
「んんっ」
女の方からの、奪うキス。
男もやさしく応える。
肛門粘膜でつながったまま、それにつながっているはずの唇も犯した。
閉じなかった視線が、歪んでつながった。
それは竜舌蘭の香りよりも甘く、テキーラよりも熱い。
「あ・・・は・・・」
泉水がゆるりと笑う。
護邦が酔ったことを自身の直腸で知ったからだ。
護邦自身、驚くほどにそれは回復した。
一分という時間程度しか挟んでいないというのに先ほどと何も変わらぬほどに、
いや、それ以上に膨らんでいる。
「これで、また、できます・・・ね?」
それは、支配されているものの声としてはあまりにも粘着質で硬質なものだっ
た。
確信した命令であり、同時に子猫以上に甘えている。
知っている、コインの両面に裏表など意味がないことを。
それらは決して単独で存在はできない。
「ああ、そうだな」
DNAが二重螺旋なのは他者を必要とするからだ。
他者が存在することで初めて自分を表現できることを知っているからだ。
支配することは支配されることである。
互いが互いを支配すること・・・それは決して愛情である必要はない。
二人のその感情、むしろ強いといえるだろう。
しかし、それだけに満足はしていない。
ただ、それだけだ。愛だの恋だの、そういう言葉で定義できないレベルの心の奥
底の獣を二人して肯定している。それだけだ。
竜舌蘭が百年に一度しか咲かないのは、それだけその花に意味があるということ
だ。
ほかの人間がしない背徳的な行為にもその価値がある。
いつからだろう、そんな考えをするようになったのは。
そんなことを一瞬脳に浮かべはしたものの、無意識に動かし始めた腰から涌き出
てくる快楽に護邦の中のそれはすぐさま流されてしまっていた。