「奥様の余命は1年未満です。」
ある夏の日、医師から告げられた。
あまり幸せではなかった幼少期を過ごし、この人となら普通の幸せな時を過ごせるだろうと感じて手を取り合った妻だった。
当時の私は欲しかった多くのものを、妻との結婚生活の中で手に入れられたと感じていた最中の事だった。
多くの事を考え、感じ、学んだ闘病の時を過ごした。
ある日、医師からこれ以上の積極的な治療はやめて本人が辛くない時を過ごさせてあげませんかとの言葉があった。
そうしてあげることが良いのだろうなと言われる前に感じてはいた時だった。
治る事に希望をもつのか
辛い治療を続けさせるのか
諦めるのか
救えなかった事に打ちのめされた。
ある日、一時帰宅の許可が出た。
久しぶりの自宅で母にまとわりつく子どもたち。
今もその姿は脳裏に焼き付いている。
その夜
横で寝ていた妻が私の手を胸に引き寄せ「して。」と、か細い声で囁いた。
高い体温、痩せ細った身体。
優しい時間だった
辛い時間だった
悲しい交わりだった。
今も忘れない、それが随分と前に過ごした妻との最期の触れ合いだった。