コロナが蔓延する前の話です
大阪の心斎橋筋商店街の外れにあるスナックビルの2階に行きつけのショットバーがあって
チャージ料金も取らないカウンターだけの小さなそのバーは近隣でスナックやらラウンジを何店舗か経営しているオーナーが自分の趣味を形にした隠れ家でもうけ度外視の店、一見さんがふらっと入れるような路面店でもなく、オーナーの店の常連さんの中でこの人ならその店の世界観を崩さないだろうという、オーナーのお眼鏡に叶った何人かにそっと声を掛けるだけで
それ以外全く宣伝をしないので、いつ行ってもほとんど客のいない落ち着いた店だった。
その店を一人で任されているバーテンダー(Kくん)は元々はオーナーが経営しているカラオケスナックのスタッフの一人で、ワイワイガヤガヤ賑やかが売りの店のスタッフとしては珍しくおちついた物腰で知的な会話をする30前くらいのイケメン、オーナーのお気に入りの趣味の店を任すのにはぴったりの人選だった
クライアントのわがままにふりまわされたとある週末の仕事帰り、落ち着いた雰囲気を求めてその流行らないバーに。
落ち着いたジャズの音楽と居心地の良い空間は昼間に酷使された脳味噌に心地よく、歳も近く住んでいるところも近くて音楽の趣味も合うバーテンダー(Kくん)との会話を当てにバーボンが進んでしまって気づいたらそろそろ最終電車の時間、
「もう帰るからおあいそをお願いします」
と言うと
「どうせもう誰も来ないですし、もう店を閉めて僕も帰ろうかと思います。閉店作業をしますので少し待ってもらったら一緒にタクシーで帰りましょう。よかったらおかわりをサービスしますので、飲んでいただいてるうちにパパッと片付けちゃいます」
と嬉しい提案。
帰りの電車の時間を気にしなくても良くなって、サービスでおかわりももらっちゃって上機嫌で片付け作業を目で追っていたら、店の扉がいきなり開いて我々と同じような年恰好の男性がいきなり入ってきた。
新しいお客さんがやってきたから、タクシーで一緒に帰るってのは無くなっちゃったかなぁって反射的に思った途端その男性が
「ちょっとお願い!助けて欲しいんです」
ってKくんに泣きついてる。
どういうこと?と思って二人の会話を聞くと
いきなり入ってきた男性は隣のバーを任されているマスター(Mさん)で二人は当然顔見知り。
助けて欲しいっていう内容は、今隣のバーは4人の女性のお客さんのグループで貸し切り状態になっているのだが、閉店時間になっても帰る気配もなく、酔っ払ってテンションが上がって踊り出すやら歌い出すやら。
しかも「どこかから男前探してこい!」とかまで言い出して収拾が付かなくなっているらしい。
「飲み代はいらないんでお二人でうちの店に来てもらうことってできますか?」
っていうお願いだった。
Kくんは隣の店の困り事なので放っておくわけにもいかず
僕はハイテンションな4人の女性グループってワードに興味津々
「じゃあ片付けもそろそろ終わったし、遅い時間だけれど人助けってことで、ちょっと行きますか」と隣のバーへ
それが、始まりでした