SM、というのには興味があった。
それは高校生くらいからだったが、実行に移したのは25位の時。一人、虐めて見た。出会い系で出会い、体を重ねるだけの薄い関係。そのはずだった。そうしたら案外楽しかった。
言葉、愛撫、快楽。その三要素を体に送り込むだけで、相手の理性というのもはあっけなく崩壊した。四つん這いでご主人様と呼ばせ、哀れにも濡らしている恥部に刺激を加えてやる。
それだけで甘美な声を漏らす。理性を持った人間が、玩具にでもありそうな間抜けな声を出すだけの楽器になり下がる。それを見るのがどうしようもなく面白かった。
その後もその家畜で遊んでみたが、どうにも最初に味わったほどのカタルシスは感じなかった。縛っても、露出させても、乳首、恥部を刺激させたまま放置などしても、最初ほどの愉悦は感じなかった。どれほどの痴態、乱れ方を見ても、肉体的な興奮は感じても、精神的な高揚は薄かった。
そして気づいた。家畜が家畜らしく振舞っているからだ、と。人間が雌に落ちる瞬間を見てしまったからこそ、きっとただ嗜虐心を慰めるだけでは物足りないのだろう。
楽しいことは楽しい。家畜も従順になり、可愛いとすら思える。だが、心の底から感じる、震えるような快楽は果てしなく遠く感じた。
だからこそ、俺は他の女性を堕としたい。そんな衝動に駆られてしまった。ただ、己の欲望のままに。
そういう点では、俺も、俺が飼っている家畜もそう変わらないのかもしれない。自分か、それともご主人と呼べる依存する人物か。欲望を吐き出す方向性が違うだけなのかもしれない。それを自覚できるかどうかも、大きな差になるのかもしれないが。
「……初めまして。よろしくお願いします」
とあるホテルの一室。そこでそんな風に声を出したのは、推定24くらいの女性。ほぼ同年代である。太めとは行かない程度の肉付きで、柔らかそうな感じを憶える。抱きしめたらとても心地よさそうだ、そんなことを考えてしまった。
SM関係の出会い系。それで知り合い、こうして出会うに至った。
「はい、初めまして。こういうのは初めて、かな」
こういうの、とは当然嗜虐と被虐を交換する行為である。サイト内の会話で経験が無いのは知ってはいたが、確認の体を持った、これから行為をするぞという、相手への宣誓でもある。穏やかな口調を保ち、なるべく相手に深いな印象を持たせないようにする。
SMというのは、ただ虐めれば良いだけではない。痛みが快楽と変わるのは、相手への信頼と好意があってこそ。何をされても感じてしまう。そんな段階にまで心を手に入れなければいけないのだ。そこに至るまでの過程がどうであれ、そうなって初めて苦痛が快楽に変わる。心を通わせない虐めなど、文字通りのただの唾棄すべき虐めだ。
俺の問いに、こっくりと相手は頷く。
「そうか。なら……緊張するなっていうほうが厳しいな」
SMは初体験。つまりそれは、俺の腕によって相手のSMに対する印象は変わる。ただの理解でき無い性癖となり下がるか、生涯連れそう、愛すべき自分の本性となるのか。そう考えたら、何故だか心が高鳴った。
とりあえず座ってくれ。身振りでそう相手にいうと、素直に相手はベッドの端に腰掛ける。その一動作一動作がどこかぎこちなく、筋肉が軋むかのように動いていた。明らかに緊張をしている。
それもそうだ。自分の知らない領域に足を踏み入れようとしているのだから。
素直にこちらの言葉に従ったが、従順なわけではない。頭の中が混乱して何をして良いのかが分からず、言われたことをしているだけだ。ここで味を占めて手を出したら……まあ、平手ですめばいい法だろう。
だからこそ、まずはその緊張をほぐすことが肝要だった。
「じゃあ、まずは脱いで欲しいな」
だからこそ、あえて段階を飛ばす。
「……はい」
小鳥が鳴くような声が聞こえたかと思うと、座ったまま、ためらいがちに何回か肩紐に手を伸ばし、ひっこめてをくりかえしたあと、俺のほうを向く。目線を感じても俺が何も言わないことを察すると、ゆっくりと服を脱ぎ始める。そういうサイトに登録してあるだけあって、きちんと従う。そんな覚悟をしていたのだろう。……なんとも、無茶をしている。
やわらかな衣擦れの音が静けさで満たされている部屋に響いた。一枚ずつ体を覆う絹がベッドに横たわり、それに比例して見える肌色が増加していく。やがて、相手は一糸纏わぬ、生まれたばかりの姿になった。
「へえ。綺麗な体じゃないか」
恥ずかしげに股間と乳房に手をやる相手の姿を観察し、素直な感想を述べた。染み一つ無い肌、大きい、というほどではないが、張りが有り形が良い美乳、綺麗な曲線を描く腰のくびれ。確かにそれは、良い体をしている、そういえた。
俺の目線が気になるのか、もじもじと体を捩る相手。それはどこか官能的であり、より興奮をそそるということをきっと相手は知らないのだろう。
……さて、どうするべきか。
まあ、やることは決まっている。相手の体を高ぶらせれば良い。入り口に立たないことには、何も始まらないのだから。
「……お前、そこでオナニーをしろ」
そう、俺は相手に命令をした。
「……オナニー、です、か?」
明らかに相手は戸惑っていた。それはそうだろう。裸になったんだ。なにをされるのか脳内で想像でも巡らせていたのかもしれない。そんなところに言われたのが、自慰をしろ、そんな命令。拍子抜けも良い所かもしれない。
「そう。オナニー。ああ、俺はあまり口を出さないからな。お前のしたいよう、いつもしてるようにしてくれていいぞ」
そう相手に言う。混乱する頭の中で、半ば反射的に相手は頷き、胸に手を伸ばした。乳首に手を伸ばし、親指と人差し指で抓み、コリコリと優しくねじる。もう片手をクリに伸ばし、ゆっくりと指でクリをこすりあげるようにして刺激を与えていく。
そんな様子を、俺はただひたすらにみつめている。そう、見ているだけなのだ。それが案外効いてくる。
「あっ……」
やがて、相手の口から少しだけ、甘い息が聞こえてきた。吐息のような、けれども快楽を感じさせる声。我慢できなくなってきたのか、乳首を虐めていた指以外の指が、胸へとたどり着き、絞るように揉んでいく。クリを擦る指は徐々に早くなっていき、段々と水音が目立ってくる。
全身の肌は徐々に赤みを覚え、明らかな事実を俺に提供してくれる。
「へえ、見られて興奮してるんだ、お前」
事実を、相手に叩きつける。羞恥心というものは、場合によってはただの起爆剤に過ぎない。恥ずかしいという感情も、快楽の前ではエッセンスと化してしまう。命令されたからしかたない。そんな風にして自慰を始めさせ、徐々に徐々に興奮させていく。思いのほか、それは上手くいっていた。
恥ずかしげに紅く染めた顔を背けるが、指を止めないということそれそのものが返事になっている。
「乳首も立ってきている。感じているみたいだな」
「体も熱いだろ?見られている部分が特に熱いかもな」
「息も荒い。口からは声が漏れている。感じてるんだな」
「濡れて来てる。聞こえるだろ?お前自身の、股間から聞こえる水の音が」
後は簡単だ。言葉で攻めて、羞恥心を増大させてやれば良い。この場での羞恥心というものは興奮とイコールだ。
「やっ……言わないで下さいっ……お願いしますっ……」
そんな言葉は、もっと言えといっているのと同義である。事実、乳首を弄る速度は上がり、クリも弄ぶ指が増えていく。
興奮は加速度的に増していく。
「気持ちいいなら、もっと声を出せ。命令されて感じているのだと、実感できるぞ?もっと、気持ちよくなれる」
そう俺が投げかけた言葉に、相手は素直に、はい……そんな返事をした。
「あぁ……んんっぁ……はあん……んぁあ……」
俺の命令を実行し始めてから、相手のオナニーは苛烈さをました。胸は形が変わるほどの強さで揉み、クリではもう我慢しきれなくなったのか、恥部に指を一本だけ入れて抜き差しをし始めた。グチュグチュといやらしい水音。相手の口から溢れ出る艶かしい嬌声。
狭いホテルの一室の壁に反響し、何回も相手の脳内を揺さぶり、そのたびに相手を興奮の坩堝に落とす。
「もっと股を開いて、俺に指が入っているところを見せてくれ」
もう脳も蕩けきっているのだろうか。何の抵抗もなく、相手はベッドへと深く腰をかけ、俺へ向かってM字に股を開いた。
「ああっ……んんんっ……見えてぇ……ますかぁっ……?」
「ああ、良く見えてるよ。お前の指をくわえ込んでいるマンコが」
生き物のように蠢くそれが、涎のように興奮を表す分泌液を垂れ流し、しりあなの方にまで垂れる。ヒクヒクと痙攣をしながら、指を締め付け、快楽を逃すまいと足掻いている。
「だらしのない顔だ。涎まで垂らして。そんなに気持ちいいのか?」
顔はもう真っ赤である。半開きの口からは下の口と同じように涎を垂れ流し、目はとろんと力なく蕩けている。
「はいぃ……気持ちいいっ……です……」
ああ、恥部がくわえ込む指が、二本に増えた。一言一言を話すたびに口元の涎が飛び、一回つくごとに恥部の愛液が乱れ飛ぶ。ただ快楽を欲しがるだけの口と口。
試しに近づいて、俺の指を口元に持っていった。すると、何のためらいもなく相手は俺の指に吸い付き、いとおしそうに舐め始めた。
舌のざらざらとした感覚、興奮による体温の上昇。それに伴い熱いと感じられる舌の温度。ピチャピチャと猫が水を飲むような音を立てながら、自分を弄ぶ手を、相手は止めようとはしない。
とまらない興奮と、とまらない指。その結果はすぐ簡単に出た。
「いっ……ピチャピチャ……はあっくっ……ああっ、ああっいくっ」
絶頂である。
「いっくっ……っっっっ……」
腰が大きく跳ね上がり、しばらくその高く上がったまま固定され、体が小さな痙攣をする。やがてそれが収まると共に腰はおろされる。同時に、ゆっくりと力尽きたように体がベッドに横たわる。
恥部はヒクヒクと振るえ、絶頂に伴いぬき去られてしまった指を名残おしそうに、開いた穴から液をたらす。
「命令されて、見られてするのは、案外気持ちいいだろ?」
息も荒く、言葉も話せない、絶頂のあとの倦怠感に包まれている相手にそう語りかけると、横たわったまま、少しだけ頷く。
それを見て少しだけ微笑むと、俺も体勢をベッドに横たわるようにして、相手と顔を近づける。
そして、唇を重ねる。
ただ、重ね合わせるだけのもの。舌なんて入れない、ただの行為。それだけ。
それだけなのに、何故か満たされたように相手は微笑んだ。俺も微笑んだ。
けれども、きっと、その笑顔の質は違うのだろう。少なくとも、俺の笑みは支配感、満足感からの笑みだった。
「……もっと、しりたいか?こういう快楽を」
「……はい。お願いします……」
恥ずかしげに、相手はそういった。
その顔が雌の顔をしていたことに、きっと相手自身も気づいてはいないのだろう。
その後は、対して面白みのない話。ただ虐めて、感じさせて、飼うことになっただけの話。
もし需要があれば、書くかも……ね。