「何だ?」
俺はとっさに身構える。茂みから出て来たのは、推定70オーバーであろうじいさんだった。
じいさんは、ニヤニヤしながら言った。
「いいもん見せてもらったー。ずいぶん若いなー、誰かに言おうか?」
「何だと!?」
俺はカッとなりじいさんを殴ろうとした。が、それを彼が止めた。
「ダメだ。手を出したら」
「何で!?」
見られた恥ずかしさと、誰かに言おうとするじいさんへの怒りを露にする俺を、彼が制止する。普通こういった場合は、男が怒り、女が止めることが多い。その時の俺は、完全に男の頭だった。必死で止める彼も男ではあったが、元々が争いを好まない性格だったため、俺を止めたのだろうと思う。
その状況で、じいさんは提案を出してきた。
「どっちかがわしの相手をしてくれないかなー。そしたら誰にも言わないよ」
「ふざけんなコラ!誰がやるかボケ!」
ニヤつきながら相手を迫るじいさんに腹が立ち、全力でじいさんを殴り倒そうとする俺を、彼が羽交い締めしてきた。
「離せ!こんなヤツ…」
「ダメだ!」
彼は俺を全力で止めながら、俺の頭の上でじいさんに問うた。
「『相手』って、どこまでですか?」
「…んー…、キスまででいいよ」「…分かりました。俺でいいですか?」
「何で!?」
「いいよー」
彼は俺の頭越しに、じいさんと交渉していた。驚く俺の頭の上で、彼とじいさんのキスの交渉がまとまっていく。俺はただ、彼がじいさんとキスするのが嫌でたまらなかった。少なくとも彼には男とする趣味はないはずだ。それだけに、彼がじいさんとキスしなければいけないのが嫌で嫌でたまらなかったのだ。
間を置かず、彼は俺を抱き締めてベンチに座り、じいさんが彼の両頬に手を添え、キスを始めた。長い、長いキスだった。その間、俺は必死で彼の腕から逃れようとするが、俺は彼の腕から逃れられなかった。当時の俺は、女としても腕力が低く、男の全力を振りほどくことはできなかったのだ。どんなに俺がもがいても、彼は俺をギュッと抱き締め続け、そのまま俺の拳も包み込んでいた。
「もっと舌使え」
じいさんが口を離して彼に注文を付ける。2人のキスはさらに濃厚になった。顔は見えないが、じいさんの愉しそうな気配は感じる。じいさんが愉しめば愉しむほど、俺はただただ悲しかった。
やがてキスは終わり、じいさんは身体を離した。その時一瞬彼の力が緩み、俺は自由を取り戻した。じいさんに向かって烈火の如く叫ぶ。
「ふっざけんなコラァ!!」
「ダメぇーーー!」
泣きそうな声で俺を止める声を聞くと、殴ろうと動き出した身体が止まった。その隙に、実に慣れたような素早さで、じいさんは公園のどこかに消えて行った。
後に残された俺は、怒りの矛先を彼に向けた。
「何で止めるの!?」
「しーちゃんが無事なら、それでいいから…」
そう言って、彼は俺を抱き締めた。俺は悲しくなって、彼の胸の中でしばらく泣き続けた。
こうして、この日俺は、初めての中出しを経験し、彼は俺に童貞を捧げ、初めての男との接吻も経験したのだった。
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