台風の嵐の中、お姉様が病院に連れて行って下さいました。
わざと足が痛むふりをして、お姉様に甘えるチェリー犬です。
待合室でも、しっかりとお姉様の腕に抱きついてましたよ。
でも、甘えるのは呼びだされるまで。
診察室に入ったら、お姉さんの恥になることはできません。
看護師さんから指示されます。
「患部が見えるように、スカートを上げてね。」
はい。これでいいですか?
スカートの下はアンダースコートだから大丈夫。
まだ若い眼鏡の先生が診察してくださいました。
「わー、良くここまで化膿したな。
こりゃ、化膿止め飲んで良くなる段階超えてるわ。」
お姉様が質問します。
「手術するんですね。」
「手術たって、患部を切開して膿と脂肪を出すだけだから。
でもねえ・・。」
「何か問題でも?」
「局部麻酔を注射するけど、ここまで化膿してると効きが悪いかも。
この子、身体が小さいからあまり多く打てないからね。」
なーんだ、そんなことか。
脅かさないでよ。お姉様のお顔が曇っちゃったじゃないの。
先生、大丈夫だから切開してください。
「お、君は勇ましいね。」
はい、痛みには強いですから。
でも、お願いなんですが。
「うん、なに?」
先生が切開してるところ、自分の目で見たいんです。
わーお、またやっちまったよ。
先生も看護師さんも目を丸くしてるよ。
お姉様の方を振り返ったら、しかたがない子だねって顔していらっしゃいます。
結局、チェリーのお願いを聞いていただきました。
スカートを脱いで、ベッドの上に片足を立てて左足を横に寝かした折敷けの姿勢
になります。
看護師さんが丁寧に消毒してくれました。
それから、腫れものの部分だけ穴が開いた白い布が掛けられます。
先生が小さな注射器を持ちました。
チェリーの後ろに立ってるお姉様の手が、チェリーの肩に掛ってます。
注射針が腫れものの周囲に数か所刺されて、少しづつ薬が注入されます。
「どう、気分悪くない?」
大丈夫ですよ。普通の注射と同じですね。
「これで効いてくれるといいんだけど。」
時計で5分を計って、先生がメスを取りあげました。
「あんまり、見ない方が良いと思うんだけどなあ・・。」
先生が心配してくれます。
背後から、お姉様のお声。
「先生、この子なら心配なく。
私の妹にしては我慢強い子ですから。」
そう言いながら、肩に掛けてくださってる手に力が入っています。
メスが入れられました。
ああ、なるほど。こりゃ、効いてないわ。
しっかり、皮膚が切られる鋭い痛みは感じました。
それを顔に出さないのが、チェリー犬のチェリー犬たる所以です。
いや、痩せ我慢とも言うか・・。
切り口は長さ3センチくらいかな。
メスを入れたらすぐに血と膿が吹きだすと思ってたけど、出ませんでした。
おや、どうしたんだろう?
先生が、別のメスを先に切開した部分に入れました。
うっ、少しきついかな。
でも、このくらいなら顔に出さずに我慢可能だよ。
「どう、痛いかい?」
先生、大丈夫みたい。麻酔効いてますよ。
チェリーの大うそつきです。
「そうか、よし。」
先生、本格的にメスを動かしました。
わー、頭の先まで痛みが・・。
しかも、先生は腫れものを周りから押して膿を絞り始めました。
チェリーは笑ってるように口の両端を上げて表情を作ったけど、見え見えだったろうなあ。
肩に置かれたお姉様の手にさらに力が入ります。
切開された切り口から、血混じりの膿が出た後、細長い白い袋状の物が出てきました。
先生がピンセットで摘まんで引き出します。
「これが、脂肪の溜まった袋。
これを取らないと、何度も腫れるんだ。」
さらに、ピンセットを切り口に突っ込んで中を探ります。
うーん、頭の先から足の先まで痛みが突き抜けるみたい。
心臓がビクッてしたのが自分で分かったよ。
チェリーは、自分の目から涙が出てないかどうかに神経を集中させました。
うん、出てないな。犬は泣かないんだ。鳴くけどね。
10分位で手術は終わりました。3針縫ってくれました。
その上から、特殊なテープが貼られます。
「水は通さないけど、蒸れないからね。お風呂入って良いよ。
1週間後に抜糸するから、また来て。」
はい、ありがとうございました。
先生、お上手ですね。全然、痛くありませんでした。
「あはは、そうかい。
いや、患者が皆君見たいだったら、医者はやりやすいんだけどね。」
お姉様も先生にお礼を言って下さいました。
「ありがとうございます。
来春、受験を控えているものですから心配で。」
「お姉さん、妹さんなら受験でも何でも大丈夫だよ。
これだけ痛んだのに、顔色変えないふりできるんだから。」
あ~あ、ばれちゃってたのか。
顔に出てましたか?
「この処置、今まで何人も大人にしけど、皆顔しかめて痛がってたよ。」
そうですか、不自然でしたか。
以後、この処置を受ける時は普通に痛いふりをしましょう。
そう言ったら、何故かお姉様、先生、看護師さんから一斉に笑われちゃったよ?
支払いののために、また待合室に坐ってたら、何人かの看護師さんが覗いています。
「あの人がスノーなの?」
「話のとおり、かっこいいよね。」
「私、男よりスノーさんがいいな。」
「声掛けてみる?」
「もうダメみたいよ。特定の愛人、出来たんだって。」
「横の子?」
「違うんじゃない?妹らしいわよ。」
傷の痛みも忘れてしまうほど、嬉しくておかしかったよ。
そうそう、お姉様って素敵でしょ。
男の人なんて、問題にならないでしょ。
あのね、特定の愛人はいないの。
それに私、妹じゃないの。
お姉様のためなら進んで地獄に行く偏屈で強情で心の狭い
奴隷犬なの。
ああ、大声でそう言いたかったな。
。
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