ここまで打ち明けたのだからなんとしてもチンポを勝ち取りたかった。もう性欲とプライドがチンポを獲得せんとタッグを組んでいる。
手を合わせて上遠野を拝む。
「……なんでもしてくれるんですね?」
あ、まずいことを言ったかもしれない。
「お、俺のできる範囲で……」
「お得意のアナニー、見せてください。今ここで」
「えっ」
なにそれこわい。変態じゃん。
「……なんでそんなドン引きするんですか……小川さんの言ったことのほうがヤバかったでしょ」
「いや……まさか見たいって言われると思ってなかったし……」
「ほら、見せてくれたら勃起するかもしれないですよ?」
「だから勃起なら俺のエロ動画たちを……」
「言うこと、なんでも聞いてくれるんですよね?」
悲報、上遠野はドSだった。有無を言わせぬ笑みで見下され、ちょっとだけお腹の奥がきゅんと疼いた。……悲報、俺は、ドMだった。
「……ほんとに勃つのか? 男のアナニーだぞ? ケツの穴だぞ? しかも俺のだぞ?」
「見てみないとわかんないじゃないですか」
「見せたら挿れてくれるんだな?」
「それは約束します。よしんば勃たなかったとして、なんとかして勃たせるんで」
「……よし、信じる」
「……小川さんって、そういうとこですよね……」
「ん? 何が?」
「……いや、何でもないです。早くケツまくって見せてください」
「きゅ、急にドSかよ……」
なにはともあれ、せっかくチンポの持ち主がやる気になってくれたのだ。このチャンスを逃す手はない。
スウェットとパンツをまとめてずるりと下ろして下半身裸になった。
「思い切りいいですね」
「アナニーは紳士の遊戯なのでね」
浴室に隠したアナニーグッズをフルチンで持ってきて(持ってきてから脱げばよかった)再びローションを指に塗り込める。
「実はさっき風呂で慣らしてきたんだよな」
「……めっちゃ用意周到じゃないですか……計画的犯行……まさか俺呼んでくれたのもそのためですか!?」
「いや、旅行の話したかったのも本当」
「はあ……『も』ね……」
上遠野が片手を顔に当てて天を仰いでしまった。
上遠野も男が好きなわけではないはずなので、俺の体が丸見えなのは萎える原因になるかもしれない。
普段のアナニースタイルは仰向けでエネマグラでじっくり快感を高めてからバックからディルドでぐずぐずになったアナルを苛める。吸盤で立てたディルドに跨って腰を振ってフィニッシュ、というのが黄金パターンだが、今回はバックで慎ましやかにエネマグラを咥えて静かに快感に浸ることにした。
上遠野に背を向けて四つん這いになり、ローション塗ったの中指を既に綻んでいるアナルにつぷりと侵入させる。
「っ、……」
それだけで期待して絡みついてくる胎内をなだめるように数回抜き挿しして、今度は愛用のエネマグラにローションをとろりとかけた。
エネマグラは大きさを楽しむものではなく、前立腺にフィットしたエネマグラが筋肉の反射で動いて快楽をもたらしてくれるものなので、ローションでぬるぬるにしすぎてもいけない。俺ほどのプロになると加減も心得たものだが。
ちょうどいいぬめりを帯びたエネマグラをひくつく窄まりにあてがう。
「っ、ふ……っ」
あれほど慣らしたおかげで痛みは全くなかった。それどころか、早くいつもの場所に来て、と言わんばかりに柔肉が蠕動してエネマグラが奥へ誘い込まれていく。
指を引っ掛ける取っ手を残して、あっという間にエネマグラはアナルの中に吸い込まれてしまった。
「それなんですか?」
「っ、エネマグラ……」
「あぁ、聞いたことはあります。めっちゃ簡単に入っちゃいましたね」
「うぅ……」
これまで俺にとってあくまでアナニーは一人遊びだった。こんな風に観察されたり言葉をかけられたことはなかった。俺のそこがどんな風になっているか、他人から教えられるのは初めてだった。
「俺アナルに何か入ってるの初めて見ました……痛くないんですか?」
「痛くない……」
「じゃあ気持ちいい?」
「っ……」
気持ちいいと声に出すのが憚られて、上遠野に背を(というか尻を)向けたまま頷いた。
「そうですよね、ずっぽり咥え込んでひくひくして、めちゃくちゃ気持ちよさそうに食ってますもんね」
くぅ、と喉から子犬のような声を漏らしてしまいそうで、慌てて息を殺した。
アナルを開発するのはあくまで純粋に気持ちいいからで、そこに被虐的な思考はなかったはずなのに、上遠野が楽しそうに言葉をぶつけてくる度に背筋に甘い痺れが走る。本格的にMに目覚めてしまったかもしれない。俺にはまだ未知なる性癖が残されていたのか。
「なんでしたっけ、ケツの中の……前立腺? それが気持ちいいんでしたっけ?」
「そ、そう……っ」
「そこに当たってるんですか?」
再びこくこく、と首を縦に動かした。
アナルは上遠野の声を聴いただけで悦んできゅうきゅうエネマグラを締め付け、それによって前立腺がごりごりと刺激されてまた胎内が快感を求めるように収縮する。悪循環というか、アクメ循環とでもいうべきか。
快楽からは逃げられないのに思うさま声を上げることもできず、唇を噛み締めてふーっ、ふーっ、と獣のように荒い息を吐くことしかできなかった。
「そんな細いので足りるんですか?」
「ぅくぅ……っ」
図星だ。足りない。
そもそも俺は本物のチンポが欲しくてここまでやってるんだ。ディルドで慣らされた肉壺は奥まで剛直を受け入れる準備万端、とろとろに疼いて男を求めている。
早く、もっと太くて長いものを突き刺してほしい。そう思うと後孔が切なくて、寂しくて、もどかしくてたまらなくなった。
俺自身のものはもうすっかり勃ち上がって先端からだらだらと先走りを零している。見なくてもわかった。上遠野に情けない姿を見られて、言葉で責め立てられて、興奮しているのだ。
「どうなんですか?」
「っ、足りない……欲しい……チンポ……」
四つん這いになって、頭を下げて腕に顔を埋めているので俺がどんなに蕩けた顔をしているかは上遠野からは見えないだろう。でも、発情した猫のように尻を上げ、しっかりとエネマグラを飲み込んで離さない蕾を見せつけて、チンポを乞う情けない声を上げている姿からはきっと想像されているはずだ。八の字に垂れ下がった眉も、涙に潤んだ目も、しまりなく緩んだ口も。
上遠野はこんなチンポ狂いのはしたない俺をどう思うのだろう? それを想像するだけで恥ずかしく、恐ろしいはずなのにチンポの先からはとろとろと透明の涎が垂れ流されていく。
「もっと太いの、持ってるんじゃないですか?」
「うん……あるぅ……」
「使ってみてください」
ちらりと視線だけで上遠野を覗うと、殊の外欲望を孕んだ熱い目で俺を見つめていた。その視線にじりじりと焼き殺されるようでたまらなかった。
いつもはどちらかというと穏やかで冷静なタイプなのに、こんな顔もするのを知らなかった。もう知り合って5年以上にもなるのに。
「ひ、引かない……?」
「今更ですって」
鼻で嗤われてまたアナルがきゅんと啼いた。どんどんMに目覚めてしまう……。
なんで抜いちゃうの、と縋り付いてくるアナルからエネマグラをずるりと引き抜いて、肌色のディルドの先端でひくつく入り口をあやす。つぷつぷと焦らすように刺激していると、
「早くしてくださいよ」
そうドSの声が聞こえた。命令されるとぞくぞくと背筋に甘い震えが走る。ぐ、と先端を押し込むと、待ち構えていたように縁が飲み込んでいく。
「ぁ……」
オモチャとはいえそれなりの大きさがあって、寂しがっていた肉壁が悦んで迎え入れる。
「あ……あっ」
「うわ、すげー……根本まで全部入った」
「んぅ」
「もう性器って感じですね、普通にチンポ入りそう」
「うぅ……」
「動かしていいですよ、それ」
上遠野に言われて手を止めていたわけではないが、許可を出されると急にそれがやらなくてはいけないことに思えてくる。熱に浮かされて力の入らない手でディルドを引き抜いて、一気に突き立てた。
「くっ……うぅ」
悦いところをごりごりと先端に押されて、もう我慢ができなかった。そのままずぷずぷとディルドを抜き挿しする。
「っ、あ、あ!」
上遠野の熱い視線を肌で感じながら疑似男根でアナルをぐずぐずに掻き回す。あまりの快感に腰はへこへこと揺れ、足の指はぎゅうっと丸まった。
気持ちいい。頭がバカになりそうだ。
通常のオナニーと違って、アナニーのときはいつも内側から満たされるような、湧き上がってくるような快楽に包まれる。
もうこのまま上遠野に見られながらアナニーで精子を垂れ流してしまってもいいんじゃないか。唇の端からとろりと涎を垂らしながらそう思っていると、
「小川さん」
上遠野に呼びかけられて、視線を向けた先には、
「小川さんの大好きなチンポですよ」
いつの間にか下半身裸になっていた上遠野の、バキバキに怒張したチンポがあった。
「っ……」
「小川さんのアナニー見てたらこうなっちゃいました」
はにかむ上遠野は、いつもの大型犬ような穏やかな顔をしてるのに、今ではチンポを扱きながら狼のような顔をして、瞳に凶暴な色を宿らせる。
「責任取ってくださいね?」
ごくりと喉を鳴らしてしまったのは、恐怖のせいか期待のせいかわからなかったが、こうなると自分が挿入れているものが急に味気なく感じる。偽物は所詮偽物でしかない。目の前に本物があるのだ。
自分にも付いてるモノなのに、初めて間近で見た他人のチンポはめちゃくちゃデカく感じた。
いや、普通に俺のよりもデカいのか?このチンポは!比べたら傷つきそうだからやめておこう。
先走りでてらてらと光るそれに吸い寄せられるようにしてまじまじと見てしまう。裏側ってこんな風になってるのか。色が肌色というか黒というかピンクというか、なんとも言えない肉の色だ。
このチンポがこれから俺の直腸を犯し、前立腺を掠め、捏ね、奥まで蹂躙してくれる。そう考えると顔中が熱くなって、アナルがひくひくと収縮を繰り返すのがわかった。
「めっちゃチンポ欲しそうな顔してますね」
「うぅ……」
「触りますか?」
「いいのか?」
「どうぞ」
あぐらをかいた上遠野の股間にそびえ立つ屹立に手を伸ばす。触るだけなら自分の物で何度も経験があるのに、他人のものだと思うとおっかなびっくり、処女の女の子みたいに恐る恐る触れてしまう。
幹はびきびきと血管が浮いて、根本にはタマがでっぷりと、精子を蓄えて鎮座している。ツルツルでキノコみたいに嵩を張った亀頭とサオの境目はしっかりとカリが張り出していて、まさに美チンポと言って過言ではないのではないかと思う。
まあ、他のチンポを画面越しにしか知らないのだが、ディルドとかよりも美しい造形をしていると思った。
「なあ、ほんとに挿入れてくれる……?」
「欲しいんですか?」
「うん……欲しい……上遠野のチンポを挿入れてみたい」
もう俺は目の前に餌を置かれて待てを強いられた犬のようだった。
まだ挿入されたままの偽物チンポを早く追い出して、本物に空洞を埋めてほしくてたまらない。発情丸出しの瞳でチンポに釘付けになってしまう。
「ゴムあるから……」
片手は上遠野のチンポから離せないまま、左手でアナニーグッズ入れを探ってゴムを渡す。
「付けてください」
「は?」
「小川さんの中に挿入るものなんだから、小川さんが付けてくださいよ」
「えー……でも俺も付けようと思ってたんだけど」
アナニーのときは盛り上がってくるとチンポそっちのけで腰を降ってしまうので結構汁が翔ぶのだ。片付け大変。
「じゃあ小川さんのは俺がつけます」
「えっ」
なんか……それは……ホモじゃない?
ちょっと正気に戻りかけたが、上遠野が手早くゴムの封を開けて俺のものに被せてきた。
「人の初めて付けた……」
独りごちながらもすんなり俺のチンポをくるくるとコーティングしてしまう。
「ほら、小川さんも」
上遠野に促され、しぶしぶ、とドキドキ、の中間の気持ちでゴムを開封する。俺のチンポを見ても、あまつさえそれにゴムを装着してもなぜかビンビンのままのそこにゴムを被せていく。
「上手ですよ」
上手で当たり前な気もするのだが、褒められるとちょっと嬉しかった。
根本まで下ろして、ついでにローションを手のひらでくちゅくちゅ温めてから塗り込めた。いよいよチンポという感じがする。ごくり。いざ決戦。気持ちが昂ぶってきた。
後ろにハメたディルドをずるりと引き抜いて、上遠野に向き直った。
「ごめん、アイマスクが小豆入りのやつしかないけどいい?」
「は?」
「いや、厳密にはゴルゴもあるんだけど、俺が笑っちゃいそうだから。それとも見えなきゃいいんだし、ただのタオルにする?」
「あの、何の話ですか? アイマスク? え、陵辱願望ですか? そんなにドMこじらせてたんですか?」
「いやいや、そんなんじゃなくて。落ち着け」
「小川さんに言われたくない……」
「チンポを借りると言うことはだね、上遠野くん。俺がお前に跨ってアンアン言うということなのだよ。視覚的にキツいだろ? だから目隠ししてもらおうと」
「はあ……」
「でもごめん、うっかりしてて蒸気のと前飲み会で使ったゴルゴの顔のやつしかない」
「いらないですよ、別に」
「え、でも俺途中で萎えられると困るんだけど……ちゃんと聴覚も催眠オナニー用の音声が」
「それもいらないです。俺、ちゃんとさっきの小川さんのアナニーで勃ってるじゃないですか」
「えっ」
……もしかして上遠野って……
「ホモじゃないですよ」
先回って念押しされてしまった。
「ホモとか関係なく、正直結構エロかったんで……多分平気です」
……マジか。
「だって小川さん気付いてます? 小川さんのケツ、めちゃくちゃうまそうにディルド咥えてますよ。キツキツで締まりがよさそうで、挿入れたらすげえ気持ちよさそう」
「ぅ……」
「声我慢しようと頑張ってたけどだいぶ聞こえてましたし……いつもはもっとでかい声でアンアン言うんですか?」
「そんなこと、ねーし……」
バレてる。
思わず目を逸らすと、上遠野がニヤリと口の端を上げて笑った気配がした。
「チンポからだらだら涎垂らして、あのままアナニーでイッちゃうのかと思いました。ケツだけでいったりするんですか?」
「そ、それはまだ……」
「『まだ』なんですね」
いわゆるトコロテンと呼ばれているそれにはまだ達したことがない。そこまでいってしまったら男として終わりだという焦りの反面、それほどまでの快感に押し上げられたらどうなってしまうんだろうという期待もどこかに眠っている。ギリギリのところで男としての矜持が押し勝っている状態だ。
「待ちに待った本物のチンポ挿入れたらケツでイけるかもしれないですね?」
そうだ、目と鼻の先にもう本物の、待ち焦がれた本物のそそり立ったチンポがあるのだ。辛抱たまらん。
「っ、アイマスク、なくていいなら、もう、挿入れていいか……?」
「どうぞ。俺どうしてたらいいですか?」
「じゃあ、そこに寝て……」
ベッドを指して、そこに仰向けになってもらった。いつものアナニースタイルが一番いいだろう。上遠野は大人しく寝転がると、二、三度チンポを扱いて、俺を待ち構えている。
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