事前情報でスリが多いとあったので財布は持たず。
数千円と5百円玉だけをポケットに入れ上野の街
に降り立った。
胸の高鳴りをおさえられないまま映画館に向かった。
遂に劇場が視界を捉えた。けばけばしく貼られたエロ
ポスター、なにより裏道にあるにも関わらず人通りが
激しい。こんなんじゃ入れないよ・・・。コンビニ
の前で人が途絶えるの待つが衰えをしらない。しか
たなく劇場に向かっても勇気がなく素通りしてしまう。
何度かそんな行為をくりかえし、上野の池を眺めていた
ら、何してんだろう、と馬鹿馬鹿しくなりこのまま
帰ろうかとも思った・・・・人の目も嫌だったが何
より魔窟に向かう勇気が無かったのだ。入った途端
老人に襲われるシーンを想像すると足がすくんだ。
そんな、あきらめかけた頃。何度目かの劇場前を通った
時、僕と同年代くらいの人が2F劇場行きのエレベー
ターに乗るのが見えた。この時しかない!僕はその男の
後ろに並ぶようにエレベーターに乗り込んだ。その
時点で心臓はバクバク。倒れるかと思うぐらい。
2Fに着き男に続いて降りた。キップを買う自動販売機
が見える。僕は用意していた5百円玉を握りしめ自分の
番を待った。男が入場し、僕の番。手の震えをおさえる
ように5百円玉を放り込み、ボタンを押す。
「いらっしゃいませ」意外に普通のトーンで受け付け
のおばちゃん。その声で不思議と極度の緊張状態が
とけ、落ち着いた足取りで劇場に踏み入れた。
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