先日、ボクのパートナーと特別なデートしたから投稿するね。
ボクは今女装で活動してるけど、正式に交際してる純女性の彼女がいるの。
ボクの活動も理解してくれてるし、この前彼女がボクのお化粧を施してくれた。
自分より確実に上手な彼女に施してもらえたこと自体、ボクには十分すぎるほどの自信になったけど、「可愛くなった」って笑ってくれたそのひと言が、何よりも嬉しかった。
せっかくのお化粧が崩れたら嫌だから、普段ほどのスキンシップこそできなくても、ボクの気持ちはちゃんと示せたと思う。
そんな彼女から、「せっかくだからお散歩デートしよう」って誘われた。ボクはメガネを外していたから気付かなかったけど、彼女もお化粧を済ましていた。
いつもボクが男としてエスコートするときの少し頼りなさそうな彼女じゃなくて、輪郭がくっきりとした凛々しい顔の彼氏♀がいた。
男装の彼氏♀と、女装の彼女♂。
特別な物語の中心に、ボク達はいた。
「せっかく可愛くなった顔が隠れたらもったいないでしょ? 今日はメガネ、外して」
めずらしく強い言い方に少し戸惑いながらも、言われるままにメガネを置いたボク。
近視のボクにとって、メガネなしは“世界を失う”ことと同じ。
自分の指先さえ朧げにしか映らないその感覚は、怖さしかなかった。
でも彼氏♀の腕に手を絡めて歩いていると、不思議とその恐怖は一切感じなかった。
きっと途中、何人かとはすれ違ったと思う。
でも、ボクの世界には彼氏♀しかいなかった。
彼氏♀以外、映らない。
視界を捨てたボクにとって、もはや彼氏♀だけが世界だった。
威厳も、支配も、何もない。
もしボクを守ってくれる存在がいるなら、それは今、この人だけだった。
その不安さえ、心のエッセンスだった。
ボクのほうが靴を合わせると20センチも背が高いから、歩幅が合うことはなかったけど、それでも、ボクの世界を彼氏♀は導いてくれた。
公園のベンチに座っていた時も、女装でのお出かけの緊張と、視界の不安で胸が高鳴っていた。
思わず、彼氏♀の顔を覗き込むように近づいた。
許してくれた。
今だけは視界を捨てたことに感謝している。
もはやこんな距離感を許してくれる免罪符として、図々しくも使っていた。
甘えたがりモードに入ったボクは、普段、彼氏♀が女としてボクに甘えてくるよりも、ずっと甘えていた。
これは責任の反動なのか、本心なのか……そんなことは、もうどうでもいい。この時間を味わえることこそが、至高だった。
肌の温もり。
声。
わずかな素振りや、視線。
他の一切が失われたボクの世界で、それだけが輪郭を持って、浮かび上がっていた。
世界は、ふたりだけ。
こんな簡単な方法が、あったんだね。
----奥付け----
見えないまま愛せたら、それは信仰か、あるいは本能。
輪郭のあいまいな世界で、曖昧なまま求め合う距離に、なぜか安心できてしまった。
視えなかったのは、顔じゃなくて、心だったのかもしれない。
それでも近づく勇気を、そっと肯定してくれたあなたへ──
この手が届いたのは、偶然なんかじゃない。