※連続作品投稿です。
そのあとの話をしようか。
ボクのメスネコモードがすっかり満たされて、愛と奉仕で一杯になった直後のこと。
しばらくして、ボクは再び発展場の空気に戻った。だけど、心はもう”そこ”にはなかった。
あの人との時間で知識欲も奉仕欲も満たされきって、ある意味ボクは”賢者モード”に入ってたんだと思う。
身体はまだ美しく女装のまま。だけど、内面はオスタチ寄り。
スカートを整えたり、服の位置を直したり、ウィッグの流れを手櫛で整えたり。
鏡を見つめながら、美しさの維持に集中していたボクは、すでに「奉仕する存在」ではなかった。
その空間にふらりと現れた数人の純男性たち。
さっきとはまるで違う、質の低い「押し付けの欲望」だった。
煽り、囃し立て、嘲笑と軽い興奮でボクを囲もうとする彼らに、嫌悪ではなく「無関心」が先に立った。
言葉も行動も雑で、魂に触れてこない。
中身が空っぽのまま、自分の快楽だけを求めてくるようなそれ。
ああ、これが「愛せない」って感覚か——
そのときのボクはただ、ひとことも返さず、動かず、視線も与えなかった。
冷ややかに、でも決して乱暴ではなく、彼らの手を静かに払いのけて、立ち上がった。
相手が性欲で押してくればくるほど、ボクの中の温度が冷えていくのがわかった。
メスネコでいるには、「好きになれる要素」や「尊重したい存在感」が必要。
誰かれ構わず愛せるほど、ボクは安っぽくない。
性を介するって、ただ体を貸すことじゃない。
魂ごと差し出して、相手の喜びに飲み込まれること。
そしてそれは、選びたいと思えた人にだけ許せる。
あの時のボクは、すでにエネルギー切れだった。
あの人の射精と一緒に、奉仕心ごと出し切ったみたいに。
無言のまま、静かに身支度を終えて、最後に鏡の中の自分を見た。
スイッチが切れたボクは、艶やかな女装を纏っていても、目だけは完全に冷えてた。
綺麗なのに、残酷。
愛しさのない状態のボクって、こんなに冷たいんだなって、ちょっと怖くなるくらい。
発展場の出口に向かうとき、誰かの視線を背中に感じた。
でも振り返らなかった。
ボクの愛は、もうそこにはなかったから。