僕は21歳、男。
恋愛対象、性対象は女。
最近までは、そう思っていた。
僕は高校を卒業してすぐに就職した会社を、半年程度で辞めた。
それ以来、実家暮らしのニート。
これと言う趣味も物欲もない。
働けと説教されるのが面倒で、友達とも会わなくなった。
好きな時に起きて好きな時に寝る。
持て余した暇な時間を潰す為に、親の財布から抜いた金を持って近所のパチンコ屋に行く。
そんなゴミクズのような生活を送っている。
今から約一年前。
この日も親の財布から抜いた金でスロットを打っていた。
残り千円、台を変えるか悩んでいると、隣の台でコインを山積みにしてる柄の悪い中年の男が声をかけてきた。
「あの台を打ってみ」
毎日のように同じパチンコ屋に通ってると、話はしなくても何人かの客と顔馴染みになる。
この柄の悪い男もその内の一人で、いつも勝ってる印象があった。
僕は素直に、男が指差す台へ移動した。
数回回してボーナスをひいた。
そこから数時間遊べたし、金もプラスになった。
その翌日、相変わらす厳つい顔でコインを山積みしてる男を見かけて、お礼にコーヒーを買って持って行った。
「いつも負けとるくせ律儀なヤツやな」
それ以来、パチンコ屋で見かけたら挨拶をしたり、出そうな台を教えてもらったりするようになった。
帰り際、余り玉で交換したお菓子をくれたりもする。
そんな関係になって暫く経った頃、たまたま換金所で一緒になった。
「勝ったか?」
「少しだけ」
「もう帰るんか?」
「帰ります」
「奢ってやるから飯行かんか?」
僕によくしてくれるの理由は解らなかったけど、僕は男の誘いを受けていた。
毎日パチンコ屋に居るくせに、どうしてこんな車に乗れるんだと言いたくなる高級車で、ありえない値段の焼き肉を食わせてもらった。
「可愛い顔してるよな」
「なに言ってるんですか?」
「ニイチャンも女装したりするんか?」
「そんな事しませんよ」
今思えば不自然な会話だけど、この時は女装が流行ってんのか程度にしか考えていなかった。
勝手に作り上げてたゲイ像みたいなものと、この男があまりにもかけ離れていたからかもしれない。
この日、僕は男と連絡先を交換して家に帰った。
それ以来、パチンコが終わると、たまにご飯を奢ってもらうようになった。
やたら僕の性経験を聞いてきたり、自分はSでSMサークルを作ってるって話をしてくるようになったけど、それも男同人ならよくある会話だと思っていた。
そして先月の頭。
「プレイの様子を撮影した動画あるけど見るのか?」
「見てみたいです」
この日も、パチンコを切り上げて男に飯を奢ってもらっていた。
僕はなんの警戒心もなく、男の車に乗りこんだ。
そして、男がSMサークル用に仲間と借りていると言うマンションに向かった。
生活感を感じれない、ダイニングキッチンとリビングが連なった広い空間には、デカい鏡があって、至るところにSMの道具やバイブが置いてある。
生活感のある物と言うと、テレビ、ソファー、テーブル、冷蔵庫くらいしかない。
そんな空間に、僕は自然と興奮していた。
「興味あるんか?」
「これ何の道具ですか?」
「それはな…」
見た事ない道具に興味が尽きない僕は、あらゆる道具を手に取りながら男に説明を求めていた。
得体の知れない道具達を実際に使ってるであろう動画を、早く見たくてウズウズしていた。
「早く動画見ましょうよ」
「今、仲間が持って来てるからもう少し待っとれ」
「他にも誰か来るんですか?」
まぁいいか程度に考え、僕はSM道具の物色を続けていた。
そうこうしてると、男のSM仲間と思われる男が二人、部屋へ入ってきた。
パチンコ屋で知り合った男に負けず劣らず、柄の悪い二人。
「お前、可愛い顔しとるの」
「道具に興味あるなら使ってやろうか?」
何を言ってるんだって感じだったけど、テレビの前で動画を見る準備をしてる男に呼ばれて、僕は男達とソファーに座った。