大学時代に後輩と温泉に行ったときの話です。そこは山奥深い清流から少し逸れた場所
で、土地の人も日に数えるほどしかない宿でした。駅で降りてから、2、30分もした
頃、足早に宿へと急ぐ私をミホコが呼び止めます。
「センパーイ!そろそろひと休みしましょう」今にも死にそうな口調のわりには、白い歯がこぼれ
るミホコに、思わず吹き出しました。「はい、はい、わかりました。まったく、オコチャマなんだか
ら」だけど、私にとってミホコは癒やし、いえ水や空気みたいに不可欠な存在だったのは否定で
きませんでした。
思えば、ミホコとの結び付きが強まったのは、実験棟での事故がきっかけでした。実験の最中
、突沸状態のガラス器具が割れて飛び散ったのです。事故が起きる寸前、危険を察知したミホコ
が身を呈して私を押し倒してかばってくれました。不幸にも、ミホコのわき腹に高熱の破片が
刺さってしまいました。
救急車の中で、気がつくとミホコの手を堅く握りしめていました。そんな時でも、傷の痛みも
省みず笑顔で私を思いやる彼女の優しさに、思わず泣き崩れました。学内でも、男勝りで通
ってた私が初めて人前で涙を見せた瞬間です。
救急車の中で、気がつくとミホコの手を堅く握りしめていました。そんな時でも、傷の痛みも
省みず笑顔で私を思いやる彼女の優しさに、思わず泣き崩れました。学内でも、男勝りで通
ってた私が初めて人前で涙を見せた瞬間です。