母さんが再婚したのは、僕がもうすぐ12になる小6の冬だった。
新しい父親は、40歳の開業医。連れ子だという僕より1つ年上少年が兄になった。
初見の“家族”との日々は、違和感を残しながらもつつがなく続いた。
僕は新しい父親を父とは呼ばなかったし、兄となった少年を兄とも呼ばなかった。いや呼べなかった。
どちらもさん付けして呼び捨てることも無かった。
彼らもまたそれをとがめることなく、一見平穏に見えていただろう。
事態が急変したのは、結婚後1年程で、母さんが事故で亡くなってからだ。
玄関の扉が重苦しく閉じられている。その前に立ったまま、僕の足はすくんで動けない。
僕の安らぎの地だった家が、今では恐ろしい魔物の口腔だ。
漸く覚悟を定めて、僕は扉を開く。
「ただいま戻りました。」
大きな声で帰宅を告げて、靴を脱ぐ。そしてすぐさま玄関に跪く。
足音が近づくのを感じながら、指をそろえて額を床に擦り付けた。
やがて義父が僕の前に立った。
義父は180を超える体格をしているので威圧がすごい。
「遅かったな?」
雷が鳴るような低音で、冷酷な声が頭上から降り注ぐ。
僕は土下座したまま首を上げない。
これが、母さんの死後以来、義父が僕に強いている服従の儀式なのだ。
もこもこと怯えに舌を震わせながら、僕はその威圧の前に萎縮した。
逆らうことなど出来ない、それは既に骨身にしみこんでいる。
「こいつ、先に学校出たよ!今日は部活動が無い日だし」
頭を上げなくとも分かる、義兄のひかるだ。
涼やかな顔と瑞々しい肢体を持つ、艶やかな少年。
明るく人気者の彼は、しかして僕を前にすれば地獄の帝王が従える小悪魔と化す。
「そんなにも家に帰りたくなかったのか?」
「いえそんなことは」
「嘘をいうな!」
威圧を含んだ声を僕は泣きたくなる思いで聞いていた。
次に宣言されるだろうことは分かっている、弁論など無論許されない。
「わかってるだろうな?部屋に入っていろ」
そう言うと義父は奥に消えた。
ひかるはにやにや笑いながら、壁に悠々と背中を預けた。
上げた僕の視界がぼやけていた、与えられる痛みを思って、既に涙が流れ落ちていた。
「ほら、早く部屋に行ってお尻出しなよ父さんが帰ってくるまでに準備が出来てないともっと痛くなるよ?」
屈託の無い声が促して、語尾は楽しげな忍び笑いに隠れた。
おずおずと立ち上がり、いつもしている部屋に入る。
震える指で僕はズボンのベルトに手を掛けた。
だが中々引き下ろすことはできない。羞恥が思春期真っ只中の13歳の僕を支配していた。
「ほーらーぁ、おーしーりだせ中一だろ」
小さな子供に言い聞かせるようにひかるは僕の耳元で囁いて、手伝ってあげるとばかりに僕を引っ張って、両手を壁に付かせる。
それから慎重に、まるで何かの職人のような真剣な態度で僕の腰の角度を調節する。
そうして僕はすっかり尻を突き出した惨めな格好を曝すこととなった。
ひかるの指が僕のズボンにかかり、わざと時間を掛けてそれを引き下ろす。
徐々に冷たい空気に、尻と性器が晒されて行く。
僕の唇から小さな嗚咽が漏れた。ひかるはそれを聞いてくすくす笑う。
「父さん、こいつがさぁ、中々脱がないから、俺が手伝ってあげたよ。」
恥辱に埋没していた僕の精神を、ひかるの声が打ち破った。
忘れていた畏怖が一斉に戻ってくる。嗚呼、と僕は呻いた。嗚呼。
「そう、ひかるは良い子だ。それに引き換えて、お前は嘘ばかりで出来が悪い。さぁ、たっぷり悪い子をお仕置きしてやろうか、お願いしますの言葉は?」
義父はどうやら、突き出された僕の尻の後ろに立っているようだった。
持っている道具は、いつもの義父の革のベルトだ。
そしてそれで軽く僕のお尻を撫ぜながら、問いかけてくる。
冷たいそれの感触が戦慄を背筋に走らせる。細かな嗚咽が悲鳴になりかける。
喉に引っかかっていた声は震えながらなんとか形となる。
「僕は嘘をつくとても悪い子です。僕はこのままではちゃんと大人になれません。僕が良い子でいられるように、僕を懲らしめてください。二度と悪いことが出来ないように、うんと罰してください。」
強いられた文句を叫ぶように口にすると、背後で義父が笑む気配がした。自らお仕置きを請うように仕込んだのも、この鞭だ。
「では罰を与える。ちゃんと感じて、反省しろ」
断罪の声が酷く遠く感じられた。
それからは早かった。
風を切る容赦のない音、尻への衝撃、そして痛み。
ぴしゃ、と湿った音が響いてから数秒を経て、熱いような、突き刺すような鋭い痛みが尻に込みあがってくるのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさぁい。」
一発打たれるたびに、僕は悲鳴交じりに謝りの言葉を吐く。
これもまた刷り込まれた悲しい習性だった。
涙は取りとめも無く瞳から溢れた。
そんな僕の隣にちょこんと座って、ひかるが楽しげにその光景を見ていた。
痛みはやがて痺れとなれ果てる。許しを請う声も徐々に力を失う。
腰が砕けて地面にへたれこみそうになった頃、ようやく打擲は止む。
「今日は、2時間はしっかりと反省なさい。」
義父が告げる時間の意味は、僕が仕置きをされたままの態勢で尻をさらしていなければならない刑期だった。
大声で返事をして、僕は尻を一層に強く突き出した。
なるべく惨めな様子を見せれば、定められた時間より早く義母に許されることもあるからだ。
思春期を迎えたばかりの僕にとって、痛み以上にこの仕置きが持つ恥辱の刺激は耐え難いものだった。
仕置きが終わってからも、しばらくひかるは僕の様子を観察していたが、やがて飽きたようにどこかへと行ってしまった。
事態が動いたのは、それからおよそ三十分経てからだった。
チャイムがなり家の中に人が入ってきた。
体が強張った、こんなところを誰かに見られると考えただけで、呼吸が苦しくなる。
「あここだよ、ちょっと部屋を片付けるからここで待っていて」
とはしゃいた声を上げてひかるが来客と二・三言を交わすと、ひかるは大きく扉を開いた。
外から口々に「おじゃまします」と言いながら、ひかるの同級生が数人部屋にはいってきた。
無論彼らは直に僕に気づいた。
怪訝に顔を見合わせ、丸出しで裸の僕の下半身や、腫れ上がった尻を無遠慮にじろじろ見てくる。
僕の目にはまた、涙が浮かんできた。
「なにこれ?」
「なにしてんの」
「なんでこんな格好しているの?」
とひかるの同級生たちが口々に聞いてくるが、答えられない。
「片付いたよ上がってよ、俺の部屋は二階だよ。弟は悪いことしたから怒られているんだよ」
そんな僕がまるで目に入らないように、ひかるは例の明るい声で一同に促した。
何か聞きたそうな様子を見せながらも、ひかるに続いて二階へと上がっていった。
ほっとしたのもつかの間だった。
数分後、ひかるは独りで階段を下りてきた。
僕に一瞥くれると、そのまま台所へと入っていった。
その横顔に意地悪そうな笑みを見て、僕は堪らなく嫌な予感に襲われた。
「ほんと?やったぁ!」
しばし義父と何かを話し合っていたが、じきに嬉しそうなひかるの声が聞こえた。
足音は再び僕に近づき、僕は尻を突き出して不自由な姿勢で、首を曲げて彼を見上げた。
ひかるは小さな帝王のように得意げに笑んで、僕に鷹揚に命令した。
「僕の部屋に来いよ。父さんが、続きのお仕置きはそこでいいってさ。 あ、ズボン邪魔だから、置いていってよ。」
そこで僕はようやく彼の思惑が知れた。
残酷な小悪魔は、僕を彼の友人らとの玩具にしようというのだ。
懇願するように僕が小さく首を振ると、ひかるは眉を顰めて、僕の尻を撫ぜた。
「ねぇ、まだ足りない?」
その一言で十分だった。
僕は泣きはらした目を擦りながら、足首まで下げたズボンを脱ぎ捨てた。
ひかるは僕の前に立ちはだかり、まじまじと毛も生えていない未熟な性器を見つめた。
力なく垂れ下がったそれは、ひかるの視線の前でますます縮こまった。
「ははっ、赤ちゃんみたいだね。」
ひかるがそうあざ笑う。僕はまた涙を流す。
それからひかるに連れられて階段を上がり、彼の友人らが待つ部屋へと導かれた。
扉の向こうの彼らは、子供特有の好奇で意地悪な視線で僕を迎えた。
「はい、みんな、紹介するね。これが俺の弟お尻もおちんちんも丸出しで恥ずかしいねーぇ?」
ひかるのからかう声にあわせて笑いが起こる。
僕は彼らの真ん中で、両手を「気をつけ」の姿勢ですすり泣いていた。
「なんてズボンはかせてもらえないの」
とひかるの友達一人が訪ねた。
ひかるは待ってましたとばかりに僕を横目でにらんで、答えを促した。
なんとか許して欲しいと僕は視線で訴えたが、ひかるはそれを見ると、掌でビシリと僕の尻をぶった。
言うことを聞かない飼い犬を躾けるような仕草に、僕は抵抗が無駄だと悟った。
僕は「気をつけ」の姿勢のまま、教えられた文句を大声で唱えた。
「僕はとても悪い子です。僕は頭が悪いので、お尻で躾けてもらわなければ分かりません。僕はお尻を叩かれたことを忘れないように、お尻とおちんちんを丸出しで反省します。また悪いことをしてもすぐにお仕置きしてもらえるように、“お尻”と言われたらすぐにズボンを脱ぎます。悪い僕のお尻をどうか躾けてください。」
消え入りたい惨めな気持ちで、僕はこうべ垂れた。
ひかると彼の友人達は、無遠慮に滑稽な僕を笑って、二人ばかりの男が真似て、僕の腫れ上がった尻をぱちんと打つ。
その僅かな刺激にさえも、痙攣しそうな痛みが走る。
「もういい、邪魔だから部屋の端にいろよ」
とひかるが命じる。
僕は彼らから離れ、裸のまま部屋の隅で立ち尽くす。
身じろぎするたびに性器が揺れて、それがまた笑いを誘う。
結局時間が過ぎても、ひかるは僕を解放しなかった。
テレビゲームに興じる彼らの傍で、僕は裸の下半身と赤く腫れた猿のような尻をずっとさらしていた。
夜の闇が訪れるころ、ひかるの友人達は帰って行った。
去り際に一人のひかるの友人が、くすくすと含み笑いながら、哀れな僕の姿を眇め見た。
友人を見送るひかるもまた、1階へと降りていく、家具と化したような僕に、声をかけることもなかった。
なぜ自分だけこうされるかは分かっていた。
母さんが死んだせいだ。
だから……。
「おい、もういい飯を食べろ」
義父に呼ばれ家政婦の作った夕飯を食べる終わると、腫れた尻を気を付けながら風呂に入って準備をする。
夜は義父が飽きるまで義父の性器を舐めて奉仕する。
俺は義父に養ってもらっているだけだからこうするしかない。
母さんがするべき仕事を出来の悪い僕がするしかなかった。