母が父と離婚したのは六年前で、僕が小学校六年
の時でした。
小さな商事会社に勤めていた父がギャンブルに嵌
り込んで瞬く間に多額の借金を抱え込んでしまい、
最後には母に内緒で、年老いていた母の実母を騙し
て金を借りたのが露呈して協議離婚ということにな
ったようでした。
父は勤務先も辞め今はどこにいるのかもわからず、
行方知れずの状態です。
母は看護師として市内の総合病院に勤務していて、
そこへ半年ほど前、足の骨を折って入院してきたの
がその男のようで、それで交際が始まったのだそう
です。
二か月ほど前に母から、交際している人がいても
しかしたら再婚するかもしれないと告白されてはい
ました。
その時も母は相手が自分よりもかなり年下である
ということを気にしていました。
息子の自分に遠慮はいらないから好きにしたらい
い、と僕は母に応えていました。
そしてその男が家に済みつきだして間もなくのこ
とでした。
夜になると母とその男が寝室で激しく絡み合う音
と声が、僕の室にまで露骨に聞こえてきて、何度も
目が覚めてしまう日が続いたのです。
物音は兎も角、母の女としての喘ぎや悶えている
声が断続的に長く続いて聞こえてくるのは、息子と
してもあまりいい気分のものではないのは当然でし
た。
母よりも年がかなり若い男の、その時の行為が相
当に激しく強いのでしょうが、男女の性行為といっ
たものに興味のない僕でも、それはやはり耳障り以
外の何ものでもありませんでした。
母が好きになった男に抱かれているのだから、そ
のことで母を責めるつもりもなく、自分がそれに慣
れていくしかないのだと思っていました。
そんなある日の夜、母が夜勤で家にいない時のこ
とでした。
僕一人が夕食を済ませ居間でテレビを見ている時、
男が酒の臭いをさせて帰ってきました。
それまでいつもそうしていたように、僕は居間の
座椅子から立ち上がり自分の室に行こうとした時、
「おい、ちょっと待ちなよ」
と唐突に男から声をかけられたのです。
僕とその男とはこれまでにも殆ど会話らしい会話
はしたことがなかったので、僕は少し驚きながら足
を止めました。
「甘いもの買ってきたから少し話さないか?」
と男が妙に優しい声で僕にいいました。
いつもなら聞こえないふりをして室に戻るのです
が、その時はどうしてだったのかりゆうはわかりま
せんが、僕は男の声に従って居間に戻っていたので
した。
男は嬉しそうな顔をして持ってきた紙袋から箱を
出しそれを開き、中から甘い和菓子をいくつもテー
ブルに無造作に置きました。
「お母さんとはまぁこういう仲になってんだけど
な、息子のお前とは一度ゆっくりと話したいと思っ
てたんだよ。だけど男同士なのに何か照れ臭くてな
ぁ」
と男は僕の斜め横にどっかりと腰を下ろして話し
込んできました。
僕のほうから特段の話もなかったので、酒の臭い
の充満する室で男の話を漫然と聴いているだけでし
た。
男は母と知り合ったきっかけや母の優しい性格の
ことを饒舌に喋り続けていました。
酒の酔いのせいもあってか、男の話は次第に卑猥
な性の話題になり、母の女としての身体のことにつ
いて喋りだしたきたりしました。
「こんなこと息子のお前にいうのも何だけどな、
母さんは女の盛りを長く一人でいたせいか、感度は
最高だぜ。ごめんなこんな話息子のお前にしたりし
て。俺は馬鹿だから」
僕が応えることができないことを、男は薄く照れ
笑いを浮かべながら喋っていました。
あるところで男がふと思い出したように、急に赤
黒く日焼けした顔を僕に近づけてきて、
「そういえば母さんお前のこと心配していること
あるぞ。お前は何、女の子にはあまり興味なくて男
が好きなんだって?」
といきなり予期せぬことを切り出してきたのでし
た。
僕から母にそんなことを詳しく話したこともない
し、実際にそうだとしてもそのことを悩んでいると
いう思いは自分にもなかったので、少し驚いた顔で
相手を見返すと、
「親ってのはそんなもんだ。子供の普段を見てた
ら何もかもわかってしまうんだな。でもよ、俺はお
前の母さんにいってやったよ。世の中そういうのは
一杯いるし、麻疹みたいに一時で済んでく奴もいり
ゃあ、そのままその色に染まっていく奴もいる。気
にすることはない。俺もそうだ。女も好きだが男も
嫌いじゃないっていってやったから気にすることな
いぜ」
そう言い終わると男は徐に身体を動かせてきまし
た。
男の手がいきなり伸びてきて僕の片方の手首を掴
みとってきたのです。
僕は慌てて男の手を振り切ろうとしましたが、逆
に強い力で相手側のほうへ上体を引き摺り込まれる
かたちになりました。
僕の上体が男の胸の前に崩れ、同時に両肩を抱き
すくめられるようになってしまいました。
男の顔が僕の顔のすぐ上に接近していました。
酒臭い男の息が僕の鼻腔に強い刺激を与えてきて
いました。
「やっぱり親子だな。お前は母さんと一緒だ。嬲
られたり虐められたりするのがいいみたいだな?そう
いうのが俺にはわかる」
間近で見る男の目に異様な輝きが出てきているのが
わかりました。
僕のほうは声を殆ど出すことなく、相手の不意の拘
束から逃れるのに必死に動こうとしていました。
「ううっ…むむっ!」
男の顔が更に下に下りてきて、僕はいきなり唇を唇
で塞がれました。