「公平くんてあんまし年増に興味がないんだけど、これだけ綺麗な人なら・・・、あるわ」
聞きたくないことだった。
わざと考えないようにしていたことだった。
そんなことを聞きたくて、滑川さんに話した訳ではなかった。
彼女が発した言葉に憤りすら覚えた。
「は? 何言ってるの。そんなことある訳ないじゃん。何でそんな断定的に言えるんだよ」
私がそういうと彼女は、
「怒らないでよ。そう思ったから言っただけなのに。別に断定的とかじゃないけど・・・、多分って言ったじゃない!? 」
と、少し困惑しながら言った。
「あのな、相手は俺の母親だぞ」
「池田くんからみたらそうだけど、公平くんからみたらただの綺麗な女性だよ」
「あ、あいつからみたって同級生の母ちゃんだ。年だって、は、離れているし、それに・・・。普通、同級生の母ちゃんと何かしようと思うかよ。じ、常識的にさぁ・・・」
言葉が上手く出てこなかった。滑川さんに反論したところで何も変わる訳じゃないのに、必死で彼女に食って掛かった。
「それは、公平くんには関係ない話だと思うよ。彼って多分・・・、サイコパスなんだと思う」
・・・なんだ、それ。
私は、訳が判らなくなってきた。さっきから大声で話していたので喉が痛かった。目の前には、届いてから一度も口をつけていない生レモン酎ハイの氷が完全に溶けていた。
「・・・ごめん。意味がまったくわからん」
私は、いつの間にか前のめりになっていたことに気付き、背もたれに寄りかかった。
「つまりね、公平くんて社会の捕食者なんだって」
滑川さんがいうには、サイコパスは病気ではなく人格障害なのだと。人に対して冷淡で、良心というのがなく、罪悪感もない。ただ、理屈としては事の善し悪しは区別がつくのだが・・・、ということらしい。
猟奇殺人者とかに多いのだというが、あれはブラックで、沢木はホワイトサイコパスなのだと。
「ホワイト? 」
「政治家とかにいたりするんだって。頭が良くて、人気があって、常に人の中心にいて、饒舌で・・・、でも嘘つきで。そのことに罪悪感を覚えないから成り立つ商売だってテレビで言ってたわ。なんかそう言われると政治家ってみんなそう思えてくるよねー」
政治談義なんてするつもりはなかったので、そんなことはどうでもよかった。
「ちょっとまって」
俺は話題をそらすまいと、滑川さんに疑問をぶつけた。
じゃあ、なにか。うちの母ちゃんはそのサイコパスで黒人男優以上の性の申し子のような奴の口車にのってしまい、男女の関係になってしまった、ということかと聞くと、それは違う、と否定された。
「あたしが言っているのは、友達のママさんとセックスしても道徳的に何とも思わず、罪悪感もないというところまでで、セックスは池田くんのママさんの自己判断だと思うよ」
「・・・だって、沢木は饒舌で嘘つきだから俺の母親をたらしこんだんだろ? 」
「セックスに嘘はないわ。レイプされたのなら別だけど、あとは全て合意よ」
「ま、まさか・・・。滑川さんは俺の母さんをよく知らないからそんなこと言ってるんだよ。母さんなんて、あれだよ!?・・・」
私は、いかに母が『肝っ玉母さん』かを説いた。滑川さんは黙って聞いていた。まだ話の途中だったが、彼女が私を制して言った。
「もういい。・・・解ったから」
「わかってくれた? でしょ? どう考えたって母さんが沢木となんて現実的にあり得ないっしょ」
「池田くんが何もわかっていないことが解ったのよ」
「は? 何でだよ! 」
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