薄れゆく意識の中で、このまま母と沢木を残してぶっ倒れてしまったらヤバイんじゃないか、と思っていたが、体は全くいうことをきかず、それでも現実と夢の中を行ったり来たりしながら母と沢木の会話を聞き逃すまいと頑張っていた。
沢木は酒に酔わせて母をどうにかしようと思っていたのだろうが、逆に母に尺をされ、
「飲め!チャラ男。あたしゃあんたみたいなのが一番嫌いなんだよ、あっはっはっはっ」
と簡単に体をかわされていた。
数時間後、男子大学生四人をリビングに酔い潰したまま、一人寝室に行き、万が一のために鍵をしめて寝たということを、次の日の朝、おめめパッチリで二日酔いを微塵も見せずに私たちの朝食を作りながら語ってくれた母から聞いた時は、みんなテーブルに突っ伏しており、胃の奥から込み上げてくる吐き気と戦っている最中だった。
「ほれ、早く学校へ行った行った。あたしは早番なんだから、あんたたちがいると家のことをかたずけてから出掛けられないじゃないの。リズムを狂わすんじゃないよ」
私たちは強制的に外へ追い出され、手には、殆ど丸々残した朝食を、「こんなに残して勿体無い」と、タッパーに詰められ持たされていた。
駅までの道中、他の二人は、「お前んちの母ちゃん、確かに黙っていれば綺麗かもしれないけど、あれはないわ。ありゃ、男だわ」
「堕とすとかいう問題じゃない、こっちが殺される」と好き勝手なことをほざいていたが、沢木は一点を見つめたままだった。
「どうしたんだ、沢木」
具合が悪いのだろうと手をさしのべようとすると、それを払いのけ、
「絶対堕としてやる・・・」と小声で言い、そのままふらふらと駅の向こう側へ行ってしまった。
私は何だか嫌な予感を感じたのだが、この時は沢木があんなに早く次の行動をおこすなんて思っていなかった。
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