思わずビールを吹き出しそうになったのを何とか堪えたが、咳き込むことは押さえられなかった。
「えほっ、えふほ、・・・誰だって? 」
私の必死の問いかけに、きょとんとした顔で滑川さんは答えた。
「なーにむせているのよ。沢木くんよ。ほら、知っているでしょ」
「いや、知っているよ。えほっ、そうじゃなくて・・・、え、いつ? なんで? 」
私は、この時何が起こったのか処理をすることが出来なくなり、彼女の発した人名がただグルグルと頭の中を駆け巡っていただけだった。
「いつって、一回生の夏休みかな。何でって・・・、何でだろ」
「沢木って、沢木だよね」
「そ、公平くん。池田くんの友達の」
すいませーん、生もう一つ、と彼女は何事もなかったかのようにビールを注文した。
こっちは何事が起こったのかと思った。
沢木と滑川さんが付き合っていた?
そんなこと初めて聞いた。
一回生の夏休みから今日まで、どれだけこの二人会ったことか。
それなのに。
どちらからも聞かされていなかった。
なんで・・・。
「今まで言わなかったのは、隠していたの? 口止めされていたとか」
「え、違うよ。てっきり知っているのかと思っていたから」
「いや、知らなかった。結構付き合っていたの? 」
「全然。夏休み明けには別れていたよ。あたしが振られたんだけどね」
「でも・・・」
あの時、沢木と接点なんかなかったよね、と私が聞くと、
「何いってんのよ、池田くんが引き合わせてくれたんじゃない」
と言われた。
一回生の夏休み前に、ある講義でグループ課題を出され、同じ班でまだ変貌前の滑川さん含む数人と、何日か掛けて課題制作をしたことがあった。
打ち上げと称してみんなで居酒屋へ行ったのだが、そこに偶然沢木が別の仲間といたのだという。
細かくは覚えていないが、言われてみれば、滑川さんを沢木に紹介したかも知れなかった。
でも、あの時はその程度で終わっていたはずだ。この後すぐに二次会のカラオケへ流れていったのは記憶に残っていたからだ。そこに沢木はいなかった。
「一瞬だったよね? 挨拶を交わしたのなんて」
「うーん、そうね。でも喋ったよ、結構。池田くん酔ってたから判んないかもしんまいけど」
冷めた唐揚げを食べながら、滑川さんはいった。
「それで・・・、その、すぐに奴のことを好きになったの? 」
私は恐る恐る聞いた。
「まさか! あたしもあの当時はまだウブだったからさ、最初はなんて軽薄な人って思ったよ。間違っても付き合うことなんてないタイプだって、自分の中で瞬時に分類分けされたわ」
「・・・それなのに、何で付き合うまでの関係になったの? 」
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