次の日、午後から一つだけあった授業を受けた。
昨日の母に対する自分自身の行為が頭から離れなかったため授業も上の空で、誰かと憂さ晴らしにカラオケでもと思えど、こんな時に限って見知った顔もなく、そうかといってまだ家に帰る気にもなれず、何とはなしに大学の最寄り駅近くのコンビニで雑誌を立ち読みしていたら、池田くん、と呼ばれて振り向くと、小悪魔系の女性がニヤニヤと不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「何してるの? 授業終わり? 」
笑うと八重歯が見える彼女は滑川さんといって、一回生の頃、必修が一緒でよくノートの貸し借りをしていたのがきっかけで仲良くなった子。
離島の分校出身で、入学当初は黒髪ロングで野暮ったい服装のいかにも田舎から出てきました的な純朴な子だった。
ところが、一回生の夏休み明けに急に路線変更し、ガチンコのギャル系に変身してしまった。
あまりの変貌ぶりに、超可愛い転入生が来た、と噂になったくらい、原型がなくなっていたのだが、元々容姿は整っていたのだから、それは至極当然の変身結果だった。
変貌後からは、あまり大学へ来なくなり、試験の近辺になるとひょっこりと私の前に現れノートを借りていく、という付き合い方に変わったのだが、私が学内で話せる数少ない女性の一人であることには変わりはなかった。
久しぶりだね、という私の挨拶に被せぎみに彼女は、「もう聞いて、超最悪」と話し出した。
付き合っている彼氏と会う予定だったのに、ドタキャンをくらってしまって、このまま帰るのが馬鹿馬鹿しくなっていたのだという内容。
「という訳で、飲みに行こうよ」
私も暇を弄んでいたことを告げると、
「嘘!? 偶然。じゃあ寂しいもの同志、とことん飲んじゃいますか」
と、滑川さんは私の腕を引った。
私たちは、近くの居酒屋へ行き、数少ない個室をゲット出来たことに小さな幸せを感じ、とりあえず生を注文して、「わっ」と乾杯した。
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