沢木とその仲間たち計三人は、その日うちに泊まりに来た。
母はたまたま休みで家におり、元気に挨拶をする沢木らを丁重に部屋にとおしながら私の左耳を摘まむと私を別部屋に引きずりこみ、「何で友達が来るって連絡しないんだ、この馬鹿息子が!」と本気で怒りながらも、得意のチーズハンバーグを短い時間で作り上げ彼らからマジ舌鼓をいただいたのはさすがとしかいいようがなかった。
料理をしているときの母は真剣で、沢木が、お母さん手伝いますよ、とキッチンに入ろうとすると、「男が厨房に入るんじゃないよ!」と一喝し、彼の出鼻をくじいていた。私は母を口説けるのは生涯で我が父だけだな、とこの時確信したのだったが。
父はおとなしい人で、異常なくらい寡黙で唯一の趣味は読書という地方公務員だった。その父が一年に一回あるかないかの出張お泊まりの日が今日だというのも何か運命づけられていたのかも知れなかった。
夕食時に沢木が買ってきたワインを母にも振る舞うと、
「あんたたち、ガキのくせにこんな高級なワインを・・・、ああもったいない」とガバガバその高級ワインとやらを飲んでいた。若い頃から酒の強さには定評のあった母は、私を含め沢木以外の男らを次々と潰し残る奴も蹴散らしてせせら笑おうとしていたのだろうが、さにあらず沢木もなかなかの酒豪だった。
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