夕方、家に帰ると誰もいなかった。
母は大概この時間には家におり、夕飯を作っているのだが・・・。
それというのも我が家では、父が判で押したように、毎日六時四十五分に帰宅していたのだが、父は待つということが出来ない人で、着替えを持ちすぐに風呂に入って湯上がりに缶ビールを飲むことを日課としていた。
夕飯の支度がされていなたったり風呂の準備がされていないと途端に不機嫌になった。別に怒鳴る訳でもなく、いつも通り黙っているだけなのだが、母はそれを嫌っていた。
母はそんな父に、夕飯を作りながら、簡単にさっと一品おつまみを作って差し出していた。それらが無くなる頃には食卓に料理が並んでおり改めて、いただきます、となり父は更に酒一合を飲む、というのを飽きずに日々繰り返していたのだった。
六時をかなり過ぎた頃、慌てて母が帰ってきた。
「ごめんごめん、遅くなっちゃった。すぐご飯作らなきゃ。お父さんが帰ってきちゃう」
母は走って来たのか、髪が多少乱れて汗を結構かいていた。息も乱れていて全身からムッとした熱気を感じた。
「遅いよ。何やってたんだよ。もう父さん帰ってくるよ」
「わかってる。ごめんてば。あの子の部屋汚くてねぇ。掃除するのに結構時間掛かってさ」
パーカーを脱ぎエプロンを着けながら母が答えた。
「そんなこともやってるの? お世話するだけなんじゃないの」
驚いて聞いた私に母は、
「何言ってんのよ、お世話ってそういうものだよ。ご飯作ったり洗濯したり掃除したりご飯食べさせてあげたり。あ、悪いけどお風呂沸かしてくんない」
「ご飯?」
「そ、利き手やっちゃったからね。あ、玄関にさっき買ってきたトイレットペーパーがあるから納戸にしまっといて」
細かい指示を出しながら家事をするのは日常のことで、私もそれに応じながら母に言った。
「左手で食べりゃいいのに」沢木が母に甘えて食べさせてもらっている光景を想像してしまった。
「馬鹿だね、この子は。難しいんだよ、左手で食べんのは。あんた今日やってみなよ」
何も答えなかった私に、
「ひょっとして・・・、まだ気にしてるの?」
と母が不安そうに聞いてきた。
いつの間にか、また沢木が母にどうかするんじゃないか、みたいな感情に襲われていた。そんなことはないって本人も言っていたのに。
「ち、違うよ。自分だったら食べさせてもらうのは恥ずかしいと思っただけ。あ、そうだ、石鹸切れていたんだっけ。出しとくよ」
心を見透かされたような気がしたので、私は誤魔化すかのように言った。
「お、さすが我が息子。偉い偉い」
手早く冷蔵庫から野菜を取りだしながら、母が答えた。しゃがんだジーパンの腰から白いパンティがみえた。親の下着なんか普段は何とも思わないのだが、変に心臓がドキドキした。
私はそれを見ないようにし。性的なことと親を結びつけたくなかったのだ。
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