私は両親の寝室へといった。心臓はさっきから尋常じゃないくらい脈打っていた。手足は微妙な震えが止まらず、なんとなくふわふわした、気持ちの悪い感じだった。
そっとドアを開けると中は真っ暗で父の鼾が聞こえてきた。かなり酒を飲んだので、鼾がうるさかった。長年のことで気にならないのか、母はそんな騒音親父の隣で静かに熟睡していた。
部屋は八畳でベッドが二つ並びで部屋の真ん中にドンと置いてあった。入口側に母は寝ており、薄い掛け布団を胸元までかけていた。
私はそっと母へと近寄っていった。
母の寝顔・・・。
この母が、これから沢木と・・・。
あの日・・・、沢木が初めて家にきた日から、私は母を一人の女性として意識しだした。
自分の母は親であり、それ以上でもそれ以下でもない。
それなのにあいつは母を、まるで奴が付き合ってきた他の女と同じような感覚で近づいてきた。
お前の母ちゃん、いい女だな。
絶対やってやる。
責任は持つよ。
・・・やったけど。
母はそんなに魅力的なのだろうか。
容姿が端麗?
フェロモン?
単に抱きたいだけ・・・?
何がそこまで沢木の野郎につけこまれた要因なのか判らない。
だが、確かに幼い頃から色んな人に言われてきた。
『あなたのお母さんは綺麗だね』
小さい時は嬉しかった。
幼かった頃の私はそう言われると、胸を張って『うん! ボクのママ、キレイでしょ』と言っていた。
それを脇で聞いていた母は『そんなことないよ』って他の人の手前否定していたけど、決まって後で頭を撫でてくれた。
思春期になると、母のことを言われることが嫌だった。性についての知識が増えたことによって、ただでさえ母について触れられたくないのに、それが母の女性的な部分に触れられた日には、みんなが『頭の中でお前のお母さんに厭らしいことをしているんだ』って告白されているような気がした。
母さんが綺麗かどうかなんて、そんなこと俺に言ってどうなるんだ? 放っておいてくれ! と口に出せない言葉をいつも飲み込んでいた。
実際、私は脳内で同級生の、見たこともない裸を思い巡らし、夜な夜な自慰行為に耽っていた。
だから、みんなもそれと同じだろうと勝手に思っていた。
高校の終わり頃から大学生になってからは、社交辞令で言ってくれているんだな、と考えていた。
綺麗だ、なんていわれたって世の中には上には上がいる。長年、それも毎日見ている自分の母親をマジで綺麗だって思っている息子なんてそういないだろう。少なくとも私はそっち側の人間ではなかった。
それなのに・・・。
あの日・・・、私が母に沢木との情事が本当にあったのかどうか問いた日。
母がそれを認めた日。
あの何ともいえない母の表情が、私の記憶に刻み込まれた。
あんなに照れ臭そうにした顔など、見たことがなかった。
それが、凄く・・・、記憶に残り、何て言うか、ストレートに言うと、興奮してしまったのだ。
あの日以来、自慰行為の時に母を思い浮かべることが多くなった。いや、正確に言うと、フィニッシュの時に母のあの顔が出てきてしまうのだ。
罪悪感だったのは最初だけで、意識して母で行為をするようになり、それだけでは飽きたらず、遂には母の下着を勝手に持ち出すという最低なことまでしてしまっていた。
しかしこれもまた、例の滑川さんに言われた言葉が引っ掛かっていたからだった。
池田くんが言っているのは、お母さん業だよ。
ママさんの何を知っているの?
ママさんの好きな下着の色は?
下着の色・・・。
小さい頃から母の手伝いをしていたので、当然洗濯物なんかも畳んできた。・・・しかし、思い出せなかった。どんな下着だったっけ?
本当に最初は確認の意味で、両親の寝室にあるタンスを開け、母の下着を取り出した。
年の割にはというか、あまりにオバサン的なものは無く、かといって派手なセクシーランジェリーなんてものも無かった。
白系の一般的なものがほとんどで、時折、ベージュや水色、薄いピンクなどがあり、濃い色だと濃紺と山吹色を少し濃くしたものが一枚づつあったくらいだった。
枚数にして十数枚。
基本的にセットで買っているのか、ブラジャーも同数程度だ。
これだけみると、やっぱり好きな下着の色は白なんじゃないかと思った。
手伝いをしていたときとは違い、改めてみる下着に物凄く興奮をした。
手に取り、匂いを嗅いだり、広げて大きさや形状を確認したりして、こんな小さいのを付けているんだ、と母の日常を思いだし、これを履きながら料理を作ったり、私や父と会話をしたら、沢木と・・・、沢木とあの部屋で・・・、母が・・・。
沢木を思いだしたときもあり、そういう時は、母の下着を握り締め、壁に叩きつけたりもした。が、慌てて拾い、綺麗に畳んでそっとタンスに仕舞い、心の中で母に詫びた。
私が好んで持ち出したのは、白の上下セットでフロントに細やかな刺繍とリボンだけ黄色のもの。ブラにも同じリボンがついていて、母が着けるには少し若い感じがして、それがまたよかった。
装着したり、下着を性器に巻いて・・・、なんてことはせず、専ら傍らに置いて、母の下着姿を想像して自慰をしていた。
小さくて華奢な母のお尻を包んでいるパンティ・・・、そう思うだけで私のアレは固くなり、母のおそらくそれ程大きくない胸を支えているブラジャーだと思うだけで、射精感が込み上げてくるのだった。
精神状態がおかしくなっていっているのは、自分でも判っていた。
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